第44話 ブラックバート その3
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小さく何度も頷いた。
「あの方ならば最初の挙動で、ウエスカが俺の操艦だとお分かりいただけただろう。途中で浴びた戦艦の砲撃が外れたのは、おそらくわざと外したのだと思う。まだまだ対艦戦闘で俺は、あの方の域には達していない」
「では今回の戦いは、元准将が手抜きされたとお考えですか?」
「いやあの一斉射だけだ。あの一斉射以外には明確に殺意があった」
「では何故、准将は降伏なさったんでしょうか」
明確に手抜き、勝利は譲られたものと中佐に言われ、俺は腹が立った。運よく勝利し生き残ったことを素直に喜ぶべきだと頭では分かっているが、腹の虫がおさまらない。体の若さに精神が引きずられているのか。俺の理不尽な怒りをぶつけられたカールセン中佐だったが、顔には笑みが浮かんですらいる。それは知己を得て数か月経って初めて見た中佐の屈託のない笑顔だった。
「貴官でもそういう顔ができるのだな、と思うと可笑しくてな」
「小官とて人間です。感情はあります」
「手抜きとは言い方がまずかった。わざと外したのは、俺の存在を確認する為だろう。アドリブを求められる状況下の艦運用において、その操艦には指揮官の抜けきれぬ癖というモノがある」
「査閲部に在籍していた時、伺ったことがあります」
「あそこにいる名手達は到達している次元が違う。恐らくは降下即応砲撃を見て疑問に思い、砲撃回避の初手にJターンを使うかどうか判断するために一斉射したのだ」
で、あればもう一つの疑問が浮かぶ。
「では元准将は相手がカールセン中佐だから降伏したと?」
「それはあの方の内心だが、察するにそれはない。戦艦への集中砲火を見て、逃走は叶わないと判断したからだ。つまり部隊訓練を含めた貴官の作戦指導に対して、あの方は負けを認めたのだ」
愉快に笑いながら士官学校出のエリートの俺の肩を叩くカールセンという、原作アニメではまず見られなかった代物に驚きを覚えつつも、胸の奥で安堵した。
元准将が昔と変わっていなかったことを、カールセン中佐が心底から喜んでいるということに。
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