第44話 ブラックバート その3
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艦に向かっていく。収束比が甘かったのか、メインスクリーンに映る戦艦の前面で中和磁場と複数のビームが衝突し……中和磁場を貫いた二本が戦艦の左舷側の表面装甲を薄く二〇〇メートルばかり削り取った。
「誤差距離修正。第二射用意」
戦艦が再び中和磁場を張り直し、さらに接近してくる。再びカールセン中佐の手が上がった時、測距オペレーターの一人が声を上げた。
「戦艦及び巡航艦より通信! 『我降伏す、寛大な処置を求む』 両艦とも減速し、艦首部に降伏信号旗を上げております!」
衝撃というべきか。カールセン中佐の手は肩より上で止まった。艦橋要員の半数の視線が中佐に向けられている。そして中佐の視線は俺に向けられている。撃つべきか、撃つべきではないか。偽装降伏なのか、それとも本気で降伏する気があるのか……戦況、相互の戦力、指揮官の性格。俺は決断した。
「降伏を認めます。航行機関を停止するよう当該艦へ指示を。それとウエスカ以外の艦は、それぞれ二隻で両艦の拿捕をお願いします。ラフハー八八号の状況を参考にして、接舷・拿捕に際しては十分警戒するように、と」
「よかろう。各艦に伝えよう」
「それと副長にはお手数ですが何名かお連れ頂いて、ラフハー八八号に移乗していただき、漂流している武装商船の回収と曳航をお願いいたします」
「わかった。副長、聞いたな。ウエスカのシャトルを使え」
副長が砲雷長席から立ち上がり、中佐と俺に敬礼してから艦橋を出ていくと、中佐は大きく溜息をついてからずっと座っていなかった艦長席に深く腰を下ろした。
それから何分沈黙があっただろうか。目を閉じ、ジャケットの上からでもわかる太い腕を組み、微動だにしない中佐を俺は見ていた。いま中佐の中にあるのは回顧か、それとも懐古か。いずれにしても中佐に声をかけるほど、俺は空気が読めないわけではない。重い空気を破ったのは、ウエスカの通信オペレーターだった。それはミゲー三四号からで、降伏したバーソンズ元准将がこちらの指揮官との会話を望んでいるというモノだった。
◆
「……ブラックバートの指揮官はボロディン大尉だ」
通信オペレーターが報告を持ってきてから三分後。ようやく口を開いたカールセン中佐はそう言って席から立ち上がった。
「頼んでいいか?」
「よろしいのですか?」
「あぁ……」
それはかつての上司と対面するのが怖いということなのか。ブロンズ准将から譲ってもらったバーソンズ元准将の経歴や性格などのレポートを見るに、上官には忠誠、同僚には友好、部下には寛大、任務に忠実と実に模範的軍人らしい軍人であった。海賊に身をやつした理由も、結局は彼自身の人間的な生真面目さ故だったとブロンズ准将は語っていたし、俺もそう思っている。
中佐も本当はわかっているのだろう。だがエジリ大
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