第43話 ブラックバート その2
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もうとした海賊側の切り込み隊の生体位置反応が、一気に乱れる。その数は二〇。
「陸戦隊切り込め。目標は予定通り機関室と環境制御機械室」
カーゴの重力を戻し、装甲服を付けた臨時陸戦隊がラフハー八八号側へと突入、壁に打ち付けられて目を廻しているブラックバートの切り込み隊をトマホークで次々と無力化していく。ヘルメットカメラ越しに見れば装甲服を着ているのは一〇名。残りの一〇名は武装していたが普通の地上戦闘服であったようで、気圧の変動に耐えられず息をしているようには見えない。
死体をカメラ越しで見るのは、この草刈り作戦を実施して以降何度かあった。それが海賊の死体であれ、片手の指に満たない味方の死体であれ。前世では葬儀の時か海外紛争や事故の報道の時ぐらいしか見ることのないそれに、俺は慣れたとはいえ免疫を完全には獲得しきれていない。それでもここまで作戦指揮官として目をそらさぬようにしてきた。
ケリムでブラックバートと対峙した際も当然戦死者は出ていた。だがそれは墜落したスパルタニアンの搭乗員や被弾した艦の乗組員であり、この目で直接遺体を見たわけではない。そして基本的に責任はリンチが負っていた。
だが今回はすべて俺の責任だ。「犠牲が出るのはやむを得ない」と言葉として言うのは簡単だが、死体を見る機会が増えるにしたがって、喉を通らなくなっていく。こんなことで将来一〇〇万、二〇〇万と死なせる立場に立った時、俺は耐えられるのか。恐らく時間とともに耐えられるようになるんだろう。死体が数字とただの光点にしか見えなくなって。
「機関室制圧完了。我が方の損害は負傷三名。いずれも軽傷」
「環境制御機械室制圧完了。損害なし。これより睡眠ガスを流し込みます」
副長ともう一人の突入班班長からの報告を聞いて、俺は背中をそらして大きく息を吐いた。カールセンも同様に大きな溜息をつく。彼ほどの歴戦の勇者でもそうなのか、俺が視線を向けたことを敏感に感じ取ったのか、カールセン中佐は自嘲したように口を曲げていた。
「貴官とは違って、儂は、死体を見ることにそれほど慣れてはおらんでな」
「小官も別に慣れているわけではありませんが?」
「副長と警備班長のヘッドカメラに映るトマホークで倒された海賊の死体から目をそらしていなかった。顔色一つ変えずにな」
「自分では血の気は引いていると思うのですが」
「陸戦総監部に二〇年勤務していたような顔色をしていたぞ」
俺はそっと腰から携帯端末を取り出してカメラに映る自分の顔を見た。確かにカールセン中佐の言うように、顔色は悪くない。だがおよそ感情というモノが感じられない能面のようにも見える。俺の児戯のような仕草を見ていたようで、小さく鼻息を吐くと視線をウエスカの正面スクリーンに向けたまま、俺の耳に入るギリギリの小さな声で呟
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