第42話 ブラックバート その1
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の周囲に網を張っている計画だった。
もしブラックバートが未知の跳躍宙点からマーロヴィア星域管区に侵入した場合は、偽装商船を再び撃破しながらの挑発行動を続けることになる。そうなると流石に一回はメスラム星系に戻ることになるだろう。そうならないことを祈りつつ、二日が過ぎた五月一五日。こちらの最速の予測で、奴らは現れた。
「前方跳躍宙点に重力ひずみを複数確認。数は一〇ないし一五」
「計測値から見て各個は質量二〇万トンから三〇〇万トン程度と思われます」
観測オペレーターの報告と共にウエスカの狭い戦闘艦橋は一気に緊張感に包まれる。複数の光学・量子センサーが作動し、画面処理が行われ、跳躍宙点に現れた異変がメインスクリーンに投影される。何もない宇宙空間からポツリポツリと小さな光の円盤が現れ、その中央から物体が現れる。全長二〇〇メートル前後、全幅四五メートル前後、全高四〇メートル前後。自由惑星同盟軍の制式塗装で包まれたそれは、明らかに『制式の』駆逐艦であった。さらにその後ろから商船らしい二回り大きな船が複数隻出現する。
「現時点における正面勢力を報告せよ」
跳躍宙点での動きが終わり、わずかな時空震を浴びたあとで、俺は沈黙するオペレーターに命じる。俺の横ではカールセン中佐が無言で腕を組んでいた。
「駆逐艦二隻は最前に並列、商船らしき船団は跳躍宙点より〇.四光秒の位置において並行二列縦隊を形成しております。商船の数は九隻」
「敵味方識別信号を受信しました。向かって右舷の駆逐艦が七六〇年型のラフハー八八号、左舷が七七〇年型のサラヤン一七号」
「間違いなく敵だ」
艦籍をデータベースで照合するよう命じようとした寸前に、カールセン中佐は吐き捨てるように呟くと、目を細めて小さく鼻息をついた。なんでそんなすぐにわかるんだという俺の視線に気が付いたのか、カールセン中佐は不快感を隠さずに俺に言った。
「かつて自分が乗っていて、大破して戦地で廃棄処分されたはずの駆逐艦とその僚艦が目の前にある。これほど不愉快なこともないな。名前を付けた奴の顔が見たくなってきた」
「あぁ……それは……」
それは間違いなく、そしてかなり運がいいのだろう。戦艦や宇宙母艦でもない限り、一度でも廃艦処分となった艦の名前は、新造艦には使われないというのが原則。恐らく艦籍データベースでも廃艦処分と出るだろう。だが艦籍データベースの更新は複雑な手続きが必要で、戦闘中行方不明の艦艇などでデータ処理が遅れたりした場合、データは放置されることもある。
「ラフハー八八号より通信です。こちらの艦籍と任務について問うてきてますが?」
指示通りこちらは敵味方識別信号を出していないので、駆逐艦は不安を覚えて問うてきたのだろう。オペレーターの一人が心配そうにこちらを見
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