第39話 猛将の根源
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もはや司令部要員のささやかなバーとなり果てていた俺の執務室で、お気に入りのワイングラスを傾けるバグダッシュは、いきなり爆弾を投下した。
「潔く海賊方につくか、手を切って正道に戻るか。どちらの道を選んでも、検察長官の人生は今日からいばらの道というわけです」
「もう証拠を集められたんですか、さすが情報部ですな」
冷蔵庫からオレンジジュースを出すコクランが、三割の呆れと一割の皮肉を交えた感嘆で応えた。聞いていなかった俺も、スキットルに入れたスコッチを少しだけ喉に流し込んだ。
「物的証拠でないと拘束はできませんよ?」
「そんなもの検察長官閣下の顔色で十分じゃないですかねぇ」
「おい」
流石に顔色が変わって立ち上がったコクランだが、俺は手で制して言った。
「軍は惑星メスラムの地上における治安維持活動には『表立って』動くことはできない。そこは分かっているんですよね。バグダッシュ大尉?」
俺の言葉に、コクランは無言でバグダッシュを細い目で睨みつけた。バグダッシュはといえばいつものニヒルな微笑で受け流している。
コクランは自称『小役人』で戦闘指揮を執ったことはない典型的な後方勤務士官ではあるが、その中でも彼の生真面目さは際立っている。労を惜しまず、整然と筋の通った手腕で物事を解決してきたからこそ『あの』対応ができたのだろう。故に正義を通すのに罪がなければ作ればいいじゃない、と平然と口にするようなバグダッシュとは精神的な骨格がまるで異なる。
現状この二人が感情的に対立したり、足の引っ張り合いをする可能性はない。二人ともその道の専門家(プロフェッショナル)であり、年下の左遷大尉の作戦であっても、手を抜かずに協力してくれることには感謝しかない。
だがそれはあくまでも二人の内心という脆く不確実なものに立っている。仮にこの二人のいずれかがソッポを向けば、俺は胸ポケットにある辞表を爺様に提出するしかない。そしてこの二人以外に、俺には彼らと同等以上の信頼と作戦への献身を求めなくてはならない相手がいる。
「……まぁ検察長官閣下は、作戦後に司直に委ねますよ。おっとこれはジョークではないですぞ」
「ちっとも面白くないよ」とコクランが呟いたことを俺が無視したのを見て、バグダッシュは続ける。
「海賊たちは四つぐらいの集団になりそうですな。一番大きい集団で一〇隻ないし一三隻程度の戦力でしょう。巡航艦の五隻もあれば鎧袖一触ですな」
広域分散し警備の薄い船を襲撃することこそが海賊の長所であり、纏まって行動するのはその最大の長所を打ち消す愚策だ。護衛船団を組んだことで、所属艦が一〜二隻程度の弱小海賊は手出しができなくなる。バグダッシュが情報屋から聞き出したデータと過去の星域軍管区のデータを突き合せれば、今後の海賊再編の想定は可能だ。
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