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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第38話 オーバースペック
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すら、陳情の効果は薄いと考え積極的に軍部へ働きかけようとはしていなかった。それ以外にも仕事はあるし、代議員が国防委員ではない為に機密の点から作戦案に直接触れていなかったからというのもあった。そこをトリューニヒトに突かれたのだ。

「ご存知のように元々警察官僚だったご経歴から、議員は治安維持政策に大変ご熱心なようで。政治家としてはまだまだ若いですが如才な男です。ロックウェル少将に限らず軍の若手有望と言われる将官や高級佐官にもいろいろとお声をかけているようですし。そのせいで昨日ブロンズ閣下にお叱りを受けましたよ。「ちゃんと監視していたのか」ってね。不可抗力だとわかったら閣下、苦虫を噛んでましたが」

 バグダッシュが誰を監視していたかは置いといて、この干渉が作戦に与える影響はどうなるか、俺はバグダッシュの興味ありげな視線をかわしつつ、とぼけ気味に考えてみた。

 トリューニヒトがバックについたことは、『小道具』の手配の困難さが減ったと考えていいだろう。そしてトリューニヒト自身が作戦案に干渉してくる可能性がないことも。作戦案を見れば警察官僚だった経験から、法的に若干問題があっても実現性が高いと推測できる。功績はフォローした自分にも転がり込むし、仮に失敗しても軍の責任で彼が傷つくわけではない。この作戦は彼の望む最もリスクの低い投資先になったという事だ。『小道具』の手配には金と時間と労力が必要だが、彼自身が支払うわけではない。軍からの作戦提出である以上、作戦成功に尽力せざるを得ないブロンズ准将の苦い顔が目に浮かぶ。

「厄介なのは作戦が終わった後なのかもしれませんね」
「そうなりますなぁ……」
 俺とバグダッシュはそう呟くとそれぞれの作業に戻っていった。

 コクラン大尉がガンダルヴァ星域管区から到着したのは、それから一五日後。年の瀬が迫る一二月のことだった。爺様とモンシャルマン大佐とファイフェルに挨拶ののち、星域管区補給本部(施設稼働率一割未満)の一室に自分のオフィスを確保すると、前任者更迭で滞っていた細かい決済をわずか一〇日で済ませてしまった。

 在籍していた補給本部の要員達ですら唖然とするスピード決済で、不安に思った何人かがいつも敬遠している俺のところにまで来て告げ口する始末。俺も見学がてらに仕事の様子を眺めてみるが、三つの端末を並べて殆どの事項を分かっているパズルのように始末していく。懸案事項と思われるものも数ヶ所にヴィジホンをかけ、部下を呼んで確認・報告させる。すべてが滞りなく進んでいく有様を見て、『同盟軍を実際に支えているのは戦果学校や叩き上げの士官だ』と、かつて査閲部の面々を思い浮かべざるを得なかった。

 そして一九日目の一二月二〇日。その余裕で事務処理をしていたコクラン大尉が、真っ青な顔で俺に面会を求めてきたのだった
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