第37話 官僚
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よりも消費がはるかに大きい星系であるのに対して、メスラムはたった一五万人。基幹産業が宇宙船装甲用材と液体水素燃料製造と農業で、総量としての規模は小さいが、消費よりも生産がはるかに多い。
ありえない話であるが、仮にマーロヴィア星域が同盟から切り離され経済封鎖をかけられたとしても、餓死者を出すことなく星域の経済を独自に回すことができる。恒星間航行も高度先端医療もない太陽系時代に戻り、カロリー維持だけの貧しい前近代的生活に耐えることができるのであれば。
「長官の御懸念ももっともですが、現在管区の有する艦艇数で、同盟領域最悪と言われる運航被害率を改善するには、護衛船団を編成するが最も効率が良いと小官は結論に達しました」
「それは軍の都合でしょう。あなたがしなければならないのは、速やかに統合作戦本部防衛部に艦艇の増援を要請することであって、星域経済産業庁に護衛船団を強制することではないはずです」
「星域開闢以来の星域統計とここ一〇年の星域輸出入・商船運航記録をもとに、『時刻表』を作ってみました」
経済産業庁自身が公開しているデータと軍の有するデータからファイフェルと俺で組んだ、現在の経済規模を維持できるだけの商船をなるべく時間のロスなく運航できる護衛船団のダイヤグラムを、ソファの向かいに座る女史の手元に置いた。船団のうち二割が海賊に襲われるという安全率も見ている。
わずか数枚のレポートではあるが受け取った女史は、まるで出来の悪い生徒の宿題をチェックするような女教師のようにじっくりと読み進める。カチカチという秒針の音だけが公室内に響く。五分後に秘書官の一人が様子を窺いにノックして入ってきたが、女史のひと睨みと本日の業務はすべて明日に切り上げるという命令で退散してしまう。
たっぷり二〇分後。女史はレポートを机の上に置いて、目頭を押さえて深く溜息をついた。
「なんでこういう話が経済産業庁や行政府政策立案局ではなく、よりにもよって軍部から出るのかしら……ほんと辺境の、ド田舎役人共の不作為には腹が立つわ」
おそらく護衛船団という考え方は、女史が赴任する以前の両当局も計画立案していたことだろう。だが海賊に繋がっている人間が居そうな軍管区あるいは庁に、協力を求めるというリスクを考えていたに違いない。これは相互不信というべきであって、俺としては女史の言うように以前の両当局者を非難することはできない。そのあたりを察しきれないところに、女史と辺境の田舎役人の間に意思疎通や感情的な反目が感じられる。だが今はそれを女史に言う必要はない。
「ご苦労されているようですね」
「あなたみたいに部下で大して苦労もしてない若造に何が分かるというのよ。知ったかぶりするんじゃない!」
バンバンと女史が低いテーブルを叩くと、女史と俺のコーヒー
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