第37話 官僚
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ろうが……」
検察長官のヴェルトルト=トルリアーニ氏は六〇代後半の男性。マーロヴィア星域に検察補佐官として中央から派遣されて二〇年。この地で管理官・参事官・次長と昇進した人物だ。その二〇年で傘下の警察組織が検挙した海賊はわずかに三。軍や警察内部に海賊の協力者がいて、戦力不足故の結果と見るべきか。当の本人にも海賊の触手が伸びてる可能性は高いが、それでも地方治安維持の経験と膨大な星系情報を持つ捜査のプロフェッショナルに違いはない。
経済産業長官のイレネ=パルッキ女史は三〇代前半の女性。前職が財政委員会事務局主税課課長補佐付係長という輝かしいキャリア中央官僚。ハイネセンで何かやらかしたらしく、半年前に着任したばかり。本職である財政・税務をめぐって現地採用の財務長官であるマイケル=トラジェット氏と激烈な対立関係にあり、酒場でも噂になるほど自治政府内で浮いた存在になっている。だがそれはキャリア官僚らしい整理された頭脳と的確な指示で、他所に口を挟めるほど経済産業局を能率的な組織にした結果ともいえる。
「多少の情報漏洩を含めて経験豊富な検察長官か、海賊の手は伸びてないと思われるが経験不足な経済産業長官か」
「筋から言えば検察長官なんですが」
「そうなんだよな」
ただ今回の対海賊作戦は、『家を焼く』と『足を切る』の両方を同時に行う作戦だ。僅かな情報漏洩があっても海賊の一掃はできるかもしれない。だが掃討することはできない。そして最終目標は海賊を掃討することだけではない。
「作戦だけでなく、今後のこともある。もう一人の方に会ってみるよ。作戦の細かいところまで説明するのは、新任の情報将校が来てからだな」
「噂通りでなければいいですけどね。美人だそうですし」
「それは厭味か? 何だったら代わってやってもいいぞ、ファイフェル」
「ビュコック閣下の面倒を見なければなりませんから、謹んでご遠慮申し上げます」
「老人介護は大変だな。だが若いうちに苦労するのはいいことだ」
「口止め料はタフテ・ジャムシードのコーン・ウィスキーでお願いします」
すっかり酒の味を占めたファイフェルは、そう言って空になったショットグラスを俺に向かってかざすのだった。
◆
パルッキ女史のアポイントは二日後。余程暇なのか、すぐにでも庁舎に来いと言わんばかりの喰いつき具合だった。中央でバリバリやっていたキャリア官僚にとってみれば、人口二〇万以下の極小自治体における業務などさして難しくはない仕事なのだろう。まして経済はどん底、産業と言われるほどものすらない無駄に広いド辺境だ。手持無沙汰だったのかもしれない。
マーロヴィア星域管区司令庁舎と比較にならないほど小さな二〇階建てビルの一室。マーロヴィア経済産業庁舎の長官公室で、女史は待っていた。
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