第一章
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デブ猫の過去
あちこちはねた黒髪をショートにした涼し気な顔立ちの細面の青年が八条動物病院横須賀店に来た、すらりとしていて背は一七二程だ。折り目正しいスーツが似合っている。
彼の名は藤井知樹という、仕事はサラリーマンだ。その彼が太った雄のトラ猫をペットを持ち運ぶ為のバスケットに入れて来たのだ。
その彼を出迎えたこの病院の獣医阪井義道は笑顔で言った。
「こんにちは」
「はい、今年もお願いします」
藤井は阪井の眼鏡が似合う細い穏やかな顔を見つつ応えた、見れば二人は背丈も体格もよく似ている。だが阪井の髪の毛は黒をセンターに分けていて獣医らしく白衣を着ている。
その彼にだ、藤井は猫を出して言った。
「トラの予防接種をそれでは」
「フーーーーーー・・・・・・」
トラと名付けられた猫はバスケットから出された、すると。
阪井を見て威嚇しだした、酒井はそのトラを見て苦笑いになった。
「もう三年経つのに」
「全然懐かないですね」
「そうですよね」
「何ていうか」
藤井はそのトラを見つつ言った。
「生きものは獣医さん嫌いですよね」
「他の子もそうなんですよね」
「皆ですか」
「動物病院自体が嫌いで」
「ああ、そういえば」
「トラちゃんもですね」
「はい、バスケット見ただけで」
その時点でとだ、今も阪井を威嚇しているトラを見つつ話す。
「逃げます」
「そうですよね」
「逃げて」
それでというのだ。
「捕まえて引っ掛かれて噛まれて」
「やっとですね」
「バスケットに入れて」
「フーーーーー・・・・・・」
阪井を威嚇し続けるトラを見つつさらに話す。
「そしてです」
「ここまでですね」
「車で連れてきます、もう逃げ回って」
それでというのだ。
「大変でした」
「拾った時と全く違いますね」
「こいつ拾った時は」
どうかとだ、藤井は三年前を思い出して話した。
「車に撥ねられていて」
「後ろ足両方共折れてましたからね」
「左の方は骨が出ていて」
無意識にその左の後ろ足を見て話した。
「血だらけで」
「大怪我でしたね」
「まあその時から威嚇してましたけれど」
事故で大怪我をした時にというのだ。
「仕事の帰り道車運転してて見掛けて」
「それで、でしたね」
「慌てて保護したら」
その時にというのだ。
「シャーーーーーッ、って威嚇されて」
「あの時から元気は元気でしたね」
「けれど痩せていて」
その時のトラのことも話した。
「今とは全然善違いますね」
「そうですね、あの時は」
まさにというのだ。
「野良で痩せていて」
「首輪していませんでしたからね」
「野良でしたね」
「はい、ですが藤井さんが引き取ってくれて
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