第35話 できること
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れた大尉殿の経験からですかね?」
「そうだ。幸い俺の死んだ親父も、叔父さんも、叔父さんの知り合いもみんな将官だったからな」
ファイフェルの酒に舌を取られた厭味に拳で返してやっても良かったが、ようやく外殻がほぐれた相手に浴びせていいモノではない。僅かな期間であってもファイフェルが性根の悪い人間ではないとわかっている。それが証拠に、察したファイフェルの顔はみるみる蒼くなっていく。
「……すみません。トイレ行ってきます」
口に手を押さえて席を立つこと五分。ファイフェルは真っ白い顔で席に戻ってきた。
「申し訳ありません。口が過ぎました」
「気にするな。俺も気にしてない。卒業していきなりの副官業務で苦労しているのは分かっている」
「……ありがとうございます」
俺が用意していた烏龍茶に口をつけ、ファイフェルはしばらく肩を落としていたが、猫背になりながらポツポツと呟きはじめる。
「仕事に自信が持てないんです」
「……」
「自分では精一杯やっているつもりなんですが、ビュコック閣下の態度を見ているとどうにも不足しているところがあるようにしか思えてならないんです」
歴戦の勇者を前にして、糞真面目な新卒の少尉が「出来ません」とは言えないのだろう。普通に前世で言う五月病なのかもしれない。恐らく爺様は気がついているのだろうが、手を差し伸べないというのはあえてファイフェルの力量を見極めたい意図があるように見える。
「爺さんは、手落ちくらい覚悟しているだろうよ。精一杯やるのもいいが、出来ることと出来ないことははっきりさせた方がいい……な」
ファイフェルにそこまで言って俺は目が覚めた。出来ることと出来ないこと。艦艇二三八隻で出来る限界から、作戦を立案すればいい。警戒する宙域が艦艇数に比して広すぎるなら『狭くして』やればいい。人間が足りないなら人間以外のものを使えばいい。敵が多すぎるなら纏めてから減らしてしまえばいい。実施するのに労を惜しむべきではないし、時間はかかるが艦隊を動員できなくても『小道具』の調達は何とかできるはずだ……
「ボロディン大尉?」
「ファイフェル。爺様との間に隙を作るな。あの爺様は本音を率直に言う相手を決して粗略にはしない。精一杯仕事をして倒れそうになったら、爺様は必ず手を差し伸べてくれる。爺様を信じろ。あの爺様は命を預けるに値する指揮官だ」
俺はそう言うとファイフェルに財布を放り投げた。多分三〇〇ディナールぐらい入っているはずだ。ファイフェルの酒量と肝臓の性能なら、あと二回呑んでも充分お釣りが来るだろう。
「え、あ、あの?」
「せっかくの休みだ。骨の髄から寛いでくれ。あ、中身はともかく財布は後でちゃんと返してくれよ」
席を立ち俺は個室にファイフェルを残し、店を飛び出した。なんか店員が声を上げよう
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