第35話 できること
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「……ファイフェル少尉、随分疲れているんじゃないか?」
「大丈夫です。若いですから。で、ご用件はなんでしょう?」
「ビュコック司令官閣下に繋いでくれ」
「はい。お待ち下さい」
数秒遅れで通信画面にビュコック爺さんが現われる。こちらはファイフェルとは対照的に元気いっぱいといった感じだ。
「おぉ、ジュニア。残業手当が出ないというのに、遅くまで仕事ごくろうじゃな」
「ありがとうございます閣下」
爺様にとって軽いジャブなのだろうが、言われた側は結構な打撃を感じる。一兵卒からの叩き上げの爺様は、若い士官学校出身者が嫌いだから皮肉っているのではないのはわかっているんだが、士官学校を出たばかりのファイフェルがそう誤解しても不思議はない。何しろ副官として四六時中、爺様からプレッシャーを浴び続けるのだから。
「で、対海賊の作戦案は纏まったのかね?」
あからさまとは言わないまでも、隠し味の唐辛子のように刺激的な圧力を加えつつ、爺様は俺に尋ねてくる。別に逆らおうと思っているわけではないが、能面素面で受け流せるほど俺の心臓は強くない。
「多方面から検討しておりますが、糸口すらつかめておりません」
「なるほど、ジュニアは正直じゃな」
腕を組んで司令官席に深く腰掛ける爺様の目には、充分に危険な色が含まれていた。だが俺が話したいことが全く別次元の事であると察した爺様は、ものの数秒であっさりとその色を消し去る。
「なにか儂に要求でもあるのかね? シトレ中将とは違って、儂には出来る事と出来ない事があるがの」
「ファイフェル少尉に休養を頂けませんか?」
本音を言えばファイフェルを一日俺に貸し出して欲しいのだが、あの顔を見ると仕事の話は別にして呑みに誘ってやりたくなる。
「近頃の若いのは身体が弱くていかんな」
俺の意図を察して爺様のギョロッとした瞳は、近くに座っているファイフェルに向けられたのだろう。画面の向こうからガタガタッと何かが床を擦った音が聞こえてくる。
「よかろう。三日以内に彼に全日休暇を取らせる。それでよいかの?」
「ハッ。ありがとうございます」
わずか三日でマーロヴィア星域防衛司令部内でも『おっかない爺さん』と認識されつつあるビュコック爺さんは、俺の敬礼に面倒くさそうに応えると、通信画面は爺様の方から切られた。
そしてファイフェルの休暇は俺が申請してからそれから三日後。あらかじめ爺様から含まれたのだろう。ファイフェルはしっかりと軍服に身を包み、俺の執務室に『出頭』してきた。
「大尉をお手伝いするよう、閣下より命じられて参りました」
到着した時よりも数段引き締まったファイフェルの敬礼に俺は席を立って応えてやると、壁に立てかけておいたパイプ椅子を二つ開いて、その一方にファイフェルを無理矢理座らせた。
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