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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第35話 できること
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を必要とする。マーロヴィア星域の海賊船は確認されているもので大きくてもせいぜい巡航艦くらいだから、次元航跡の大きさは小さく数日もすれば消えてしまう。根拠地を明確に把握できないのは、今までの軍指導部が無能だったわけではない。

 過去の管区防衛司令部も数度にわたり中央に戦力の増強を依頼していた。しかし中央航路から遠く離れたド辺境に大戦力を駐屯させるよりも、制式艦隊や中央航路星域の巡視艦隊に配備する方が重要視される。艦艇だけなら配備は出来るだろう。二万隻以上を一度に失ったイゼルローン攻略やアスターテ星域会戦、アムリッツァ星域会戦以降の惨憺たる敗北が続いている時期ならともかく、戦力に余裕があるはずの現時点でもマーロヴィア星域に艦艇が配備されない理由はただ一つ……「動かす人が足りない」のだ。

 幾ら素晴らしい軍艦を建造しても、運用する人間がいなければただの金属と有機化合物の箱。総人口一三〇億人といわれる自由惑星同盟で五〇〇〇万人という数字は、継続維持可能な軍人の数的限界に近い。当然五〇〇〇万人全員が戦闘艦艇要員ではない。後方支援部隊があり、地上戦部隊があり、指揮・運用組織がある。軍艦の省力化は自由惑星同盟軍成立以来常に求められているが、それでも限界は存在する。充足率六割というマーロヴィア星域防衛艦隊は、空間戦闘が継続可能なギリギリの数といっていい。

「せめて一〇〇〇隻あれば、話は違ってくるんだがなぁ」

 大尉の階級で執務個室が与えられているというだけで本来は破格の扱いだが、ここでは単に司令部の部屋が余っているだけだ。自然環境の良さからこの惑星が、将来辺境開拓において重要な拠点となると考えた一〇〇年前の統合作戦本部が作っただけあって、管区防衛司令部の建物は無駄にデカイ。各艦の艦長にも個室が与えられているというのに、施設の七割以上が未だ閉鎖されている。充分な人員を配置し、通信などの設備を再構築すれば、数個艦隊の戦力を指揮統制することすら出来るだろう。だが現在はたったの二三九隻。

 しばらく自分の考えをメモにとり、それを破く作業を繰り返す。いつの間にか時計は二〇〇〇時を指していた。勤務時間は基本的に〇八〇〇時から一八〇〇時。次席参謀という考えることが仕事のような者に残業手当は出ないので、気晴らしまがいに俺はファイフェルに電話する。

「……あぁ、すみません」

 画面の向こうのファイフェルは、俺の顔を見てもどこかぼんやりした様子で、幼さの残る顔には疲労が浮かんでいる。原作では第五艦隊の高級副官で少佐からの登場だったが、現在は士官学校を出たばかりの少尉。いきなり星域防衛司令官の副官に任じられ、その労苦は大きいのだろう。まして上官があの爺様ときては。

「どのようなご用件でしょうか。ビュコック司令官閣下との直接通話をご希望ですか?」

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