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3章 穏やかな日々
32話 ある女の子
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私たちこれから暇だし、よかったらついていこうか?仲介役がいたほうがやりやすいだろうし」
「ほんとか?それは助かるな」
「ツカサ君もいい?」
「ああ、勿論」

 ツカサも快くうなずいてくれる。

「よかったねぇ、ユイちゃん。お姉ちゃんたちもついてきてくれるって」

 アスナがユイの頭を撫でながら微笑んで言えば、一生懸命ミルクを飲んでいた手が止まり、どこまでも深い黒に純粋な光を湛えた彼女の目がこちらを向く。

「…?」
「私はリア。こっちはツカサ君だよ」

 まさかの幼女にさえ人見知りが発動しているツカサの代わりにリアが自己紹介をする。すると、ユイは難しそうな表情を浮かべた。

「い、あ…ちゅ、さ…?」

 たどたどしい口調ではちゃんと発音できていない。確かにこれは幼児レベルだ。

 それを見かねたアスナは、

「こっちがねーねで、こっちがにーにだよ」
 
 という。

 いや、アスナ、何言ってるんだ、とリアたちが思うよりも早く、

「ねーね!にーに!」

 と満面の笑みでユイはアスナの言葉を繰り返した。

 ぐほっ、とリアはダメージを喰らった。間違いなく、そんじょそこらのラスボスより相当重い攻撃を繰り出してきやがるぜ…!とリアは心の中で胸を押さえ、うっと(うずくま)りつつ、芝居がかった発言をこぼした。可愛い…!可愛すぎる…!

 が、そんなリアよりもダメージを追った人間がいた。

 言わずもがな、リアの隣に座るツカサである。

 口さえ開いていないものの、その眼は間違いなく遥か彼方イスカンダルへ飛ばされていた。完全に呆けた顔という言葉が似合うほどぽかんとしていた。

 ああ、恐らくユイの言った「にーに」という言葉がツカサ君の頭の中で永遠ループしている最中だろうと、リアは考察する。実際、其の考察は完全なる正解だった。

 そんなツカサに追い打ちをかけるように、ユイはタッと椅子から降りるとテーブルを回り込んでツカサの脚に飛びついた。

 びくぅん!とツカサの手がわずかに跳ねる。

 が、問答無用と言わんばかりにユイは満面の笑みで「にーにも、いっしょにおでかけ?」と問いかけた。

 人見知りに「この子可愛い」が加えられ、二進(にっち)三進(さっち)もいかなくなったツカサがオロオロと手を震えさせ、視線を必死に泳がせているのを横目に、リアとキリトとアスナは声を押し殺して爆笑していた。リアなんかは、目尻に涙を浮かべ肩が高速で痙攣している。この状況を知らない人が見れば、一大事と勘違いし救急車を呼ぶ(もちろん、この世界にそんなものはないが)レベルだ。


 普段はどんな状況でも冷静で、涼しい表情を浮かべているあの男が、幼女によって過去最大級に動揺させられているというこの状
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