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ソードアート・オンライン〜剣と槍のファンタジア〜
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3章 穏やかな日々
32話 ある女の子
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、なんとか普通に話ができる状況になったため、キリトはこの8歳ぐらいの少女を発見したときの状況について語った。

 なんでも、この近くの森を散策してるときに発見したらしい。近くに親がいる様子もなく、目を覚ましてみると、記憶がない上言語状態は幼児レベル。おまけにシステムウィンドウはバグでおかしくなっているときた。

 正真正銘の訳ありの子に違いない。

「新聞や雑誌の尋ね人コーナーを探したが情報はなし。でもこんな子が一人でいたら目立つだろう?だからこれから始まりの街にこの子を知っている人がいないか探しに行くところだったんだ」
「なるほどね…」

 リアは顎に手を当てて考え込む。

「ツカサ君、この子見たことある?」
「いや、ないな」

 ツカサは断言した。

 オールラウンダーとして、下層プレイヤーから攻略組まで幅広く多くの人と関わってきたリアとツカサは、大方のプレイヤーの顔と名前は憶えている。だがこの子は記憶にない。こんな幼い子どもを見つければ、間違いなく保護していただろうから忘れている可能性は限りなく低いだろう。

 こんな子どもが、アインクラッド初日から今日(こんにち)に至るまで一人で生き抜いてきた可能性も同じぐらい低い。

 システムのバグという点も引っかかる。NPCでないことは間違いないようだが…


「とりあえず、教会に連れてってみようか」
「教会?」

 首を傾げたアスナに、リアは説明する。

「始まりの街に、幼いプレイヤーを保護している、いわば孤児院みたいなところがあるんだ。そこを切り盛りしてる人は定期的に街を見回って、困っている子どもがいないかパトロールしてる。もしかしたら、ちらりとでも見てるかもしれないし、そうでなくてもそこならこの子を預かってもらえるからね」
「そんなところがあるんだな」

 流石リア姉だな、顔が広い、と感心しているキリトの横に座るアスナの顔は優れない。

 それはリアがユイを“預かってもらえる”と言ったからだった。

『短い間に、情でも移ったんだろうな』

 リアはそんなアスナを横目で見つつ内心思う。確かに、目の前に座る少女は可愛い。艶やかな黒髪にぱっりした黒曜石の瞳、真っ白くてきめ細やかな肌、作り物かと疑ってしまうほど容姿が整っているし、幼児レベルの言語能力とでもなれば、母性本能がくすぐられ愛おしく思ってしまうのは当然のことなのかもしれない。

 だが、キリトとアスナは攻略組だ。今は休暇中とはいえ、再び前線に戻ればほとんど家を空けることになる。そうなった場合、寂しい思いをするのはこの子のほうなのだ。それがわかっていても手放しがたいのだろう。

 わずかに、羨ましいな、なんて思ってしまった自分を叱咤し、リアは思考の沼から抜け出した。


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