第3楽章〜迫る生命のカウントダウン〜
第21節「奇跡──それは残酷な軌跡」
[1/6]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
二課仮説本部。その廊下をストレッチャーに寝かせられ、響と翔が医務室へと運ばれていく。
「響くん……」
「く……ッ」
「翼さん……」
「お前……」
翼は壁を殴りつけ、悔し気に歯噛みしていた。
「二人の暴走を招いたのは、私の不覚だ……」
「それを言うなら……僕だって」
「あたしがあの時体勢を崩されなきゃ──ッ!」
「過ぎたことを悔いてもどうにもならん。敵の狡猾さが我々の一枚上だった……それだけだ」
「司令……」
医務室の扉が閉ざされる。
装者達はただ、二人に何もない事を祈り、それを見つめることしかできなかった。
ff
(あれ……? 響は……? 姉さんや純、雪音も、何処へ……?)
視界に広がるマーブル色の背景。
それはやがて、記憶の中に眠るモノクロの風景を呼び覚ます。
(また……あの夢か……。もう、随分と見ていなかったような気がするんだけどな……)
それは、忘れもしない二年前の光景だ。
当時、千葉の親戚に預けられていた頃に通っていた中学校。
「ライブ会場の惨劇」で、姉と自分を可愛がってくれていた姉貴分を喪った後に出会った、一人の少女がそこに立つ。
机には心無い言葉の数々を油性ペンで書きこまれ、その上にはいずれも惨劇の被災者を批判する記事を大々的に載せた雑誌が何冊も、わざとらしく置かれていた。
『よく生きていられるわね〜』
『たくさん人を殺しておいて』
誰かが言った。
『知らないの? ノイズに襲われたら、怪我をしただけでお金貰えるんだよ〜。特異災害補償って言ってね……』
『それって、パパやママからの税金でしょ? はぁ〜、死んでも元気になるわけだ。マジ税金の無駄遣い〜』
『ね〜』
『フフフ……』
『クスクス……』
陰口に囲まれながら、少女はキョロキョロと教室を見回している。
謂れのない悪意に彼女は傷付き、独り俯く。
“やめろ、その子には関係ない。”
叫びたかったのに、その一言が言えなくて……。
父さんの息子である以上、本当ならここで特異災害補償の詳細でも諳んじて、馬鹿なクラスメイト達の言葉を取り消させてやりたかった。
たとえ聞き入れられないとしても、俺はあの少女を庇うべきだった。
だけど、あの時の“僕”はまだ弱くて……飛び出していくことすら、ままならなかった。
僕にもその悪意が向けられるのが、怖かった。
僕だけじゃなくて、姉さんや父さん、周りの人達にもその矛先が向くのが恐ろしかった。
僕は臆病者だ……。防人の息子でありながら、卑怯にも彼女を……。
それだけじゃない。
彼女に声をかけようと、後をつけて……でも、結局何もできないまま、彼女は家まで辿り着く。
彼女の自宅を見て、
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ