「代わり」の意味
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少女に須郷が何をしたのか…その当事はわからなかった。だが俺にとってはそれの意味する事などどうでも良かった。唯一つ、友達の女の子を泣かせた。それで謝らない。それだけで俺にとって須郷は許されるべきではない悪だった。あながち間違ってはいないその感情のままに俺は明日奈の家から全力で飛び出して日が暮れるまで須郷を探した。
足が他人より速くても子供が車に追いつける訳がなかった。
「おや、昨日ぶりだね木戸君。」
何の因果か、俺はその翌日もう一度須郷と会った。
「お前、明日奈に何したんだよ!?」
「おや、人聞きが悪いな、僕は何もしてないよ。」
「嘘をつくな!俺知ってるんだぞ!明日奈、泣いてたじゃん!」
その時奴が俺に初めて本性を表した。
「五月蝿いガキだなあ君。」
辺りを見渡して、その後俺を蹴飛ばした。
「君が何を知ってるって言うんだ、んん?」
子供の俺に大人の蹴りが耐えられる筈もなかった。
「調子に乗るなよ。クソ餓鬼。僕は君みたいな奴が大嫌いだ。」
体の節々に至るまでズタズタに蹴られ殴られ、死ぬかと思った俺はそれでもずっと意識を保っていた。
「琢磨!?」
「あ…すな…?」
その時にはもう既に須郷は去っていた。
「誰にやられたの…?」
須郷だ、と言う事は簡単だった。だけどそれは負けず嫌いな俺にはどうしても口にしてはならない事だと思ったらしく結局今に至るまで誰にも…明日奈にさえ俺が誰にやられたのかを教えなかった。明日奈が、俺にあの日自分が半ば強姦まがいの事をされたのだと言えなかった様に。
ただ俺はこの時悔しかったけど泣かなかった。だからガキの俺でもこれはわかったんだろう。
泣かされた明日奈はもっと酷いことをされた筈なのに、俺を気遣ってくれた。
明日奈は運命のお姫様なんかでなかった。俺もきっと明日奈の王子様なんかではないだろう。
でも俺がこの娘を守ろうと思うのには充分すぎる理由だった。
・・・明日奈、俺が怖いか?・・・
・・・琢磨が?ううん怖くなんかないよ・・・
・・・そっか、じゃあ俺を「代わり」にしろよ・・・
・・・代わり?・・・
・・・俺の事好きな訳じゃあないだろうけど、アイツよりはマシだろ・・・
・・・うん、わかった。わかったよ琢磨・・・
「お前には期待してるよ、キリト。」
是非とも俺の「代わり」をお役御免にしてくれ。
…ただしお前が本物ならな。
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