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第百四十話 帝都オーディンへの帰還
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わ。私は過去しか見えていなかったし、過去しか見ていなかった。
 それが、私とあなたたちとの違い。だから私はあなたたちに託します。自分の未来を。
 あなたたちが自らの理想を自らの力で切り開くことができるかどうか、私は遠くで見守っています。
 なんだかもう眠くなってきました。これ以上書けないわ。

 クリスティーネ・エルク・フォン・ウィトゲンシュティン――。

 読み進めるにつれ、手紙には点々と染みができた。カロリーネ皇女殿下は流れる涙を拭おうともせずに震える手でそれを握りしめていた。

「あなたは・・・・あなたは最高の教官であり、司令官でした」

 アルフレートはかすれる声で言い、カロリーネ皇女殿下は黙ってうなずいた。
 ウィトゲンシュティン中将、ファーレンハイト、シュタインメッツ、第十三艦隊の面々、そしてこれまで自分とかかわってきた人々。これらの人々は過去に去りつつある。自分たちを残して。今そのことが重く胸にのしかかってきた。

「ウィトゲンシュティン中将閣下、ファーレンハイト、シュタインメッツ・・・・みんな・・・・私たちはあなた方に数え切れないほどの恩を受けていたのに・・・・私、何もできなかった・・・・・何もかえせなかった・・・・・」

 手紙を握りしめていたカロリーネ皇女殿下の手が震えている。アルフレートはその手を握った。

「行きましょう」

 カロリーネ皇女殿下は、顔を上げた。目の前にずっと共に道を歩んできた仲間がいる。アルフレートがいてくれてよかったと思う。自分一人ではきっと押しつぶされてしまうだろう。彼がいてくれたからこそ――。

「アルフレート。・・・・ううん、なんでもないわ」
「???」

 アルフレートは一瞬怪訝そうな顔をしたが、

「僕たちは皆の分まで歩きつづけなくてはなりません。それが生き残った僕たちの役目です」
「できるかな・・・・」
「無駄に気負う必要はありませんよ。でも、忘れない事は出来ます」
「そうね・・・・・・」

 カロリーネ皇女殿下は息を吐きだした。 

「あなたの言うとおりね。私は私にできることを気負わずやっていくわ」

 カロリーネ皇女殿下は手紙をそっと懐にしまった。これからずっと肌身離さず大事にするつもりである。

* * * * *
 
 ラインハルトはブリュンヒルトにカロリーネ皇女殿下、アルフレートらを乗せ、イゼルローン要塞にメックリンガー、ルッツ、ワーレンを残すと、帝都オーディンへの帰還を決めた。
 ローエングラム陣営はフェザーン方面に展開するアイゼナッハ艦隊について、警戒部隊を残して帰投本隊に合流するように指令した。もう大規模な警戒は不要だと判断したのである。

 この時、ヴァリエから一つの通信がアレーナに向けてもたらされた
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