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第百三十七話 作戦準備
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。すべて吐き出すのは、全てが終わってから。でも、一つだけ」
ジルは息を吸って、眼を閉じた。
「妹から元帥閣下のことはよく聞かされていました。その時妹は本当に幸せそうな顔をしていました。不思議ですね、艦長になって今までよりも激務になったはずなのに、艦長になってから妹が作るお菓子は今までよりもずっと、本当においしかったんです。本当に・・・・」
「・・・・・・・・」
「私、この戦役が終わったら軍をやめて故郷に帰ります。妹の夢だったパティシエを継いで妹と寄り添いたいと思っています」
「・・・・・・・・」
「ですが、それまでは新艦長として精一杯やらせていただきます。よろしくお願いします」
双子の姉でイルーナの旗艦ヴァルキュリアの艦長だったジル・ニールは重傷を負ったが、妹の職を継いでヘルヴォールの新艦長になったのである。
眼を閉じたにもかかわらず、彼女の眼から一筋の涙がすっと零れ落ちた。それでも声は最後まで震えを見せていなかった。
「すべてが終わったら、あなたの作ったお菓子を食べさせてください。こちらこそよろしくお願いします」
フィオーナはそう言い、彼女の手を握った。
「フィオ」
ティアナがフィオーナに話しかけた。
「敵の攻撃はあなたを狙うけれど、絶対に最後まであなたを守り抜くわ」
そういってティアナは不意に笑みを見せた。フィオーナが不思議そうな顔をすると、
「私は攻撃することしか知らないし、今までもそうして闘ってきたけれど、今回は守りに徹するなんてね、まるであなたの十八番を奪うような感じがして」
「ティアナに守ってもらえるなら私は安心して歌えるもの」
「ええ」
ティアナは拳をさしだした。フィオーナは軽く拳を合わせた。前世から重大な場面で、二人がやる儀式のような物だった。二人の間にもう言葉はいらなかった。
ティアナは軽くフィオーナの肩を叩くとそのまま背を向けてフレイヤが係留されている方角に向かっていった。ヘルヴォールの隣にフレイヤは係留されている。
イゼルローン要塞の軍港から次々と準備を終えた艦が飛び立っていく。遠ざかっていく親友の後姿をフィオーナは艦が起こす風に吹かれながら見送っていた。
一人、とフィオーナは胸の中でつぶやいた。前日束の間ミュラーと別れを惜しんだ時もそうだった。誰しもが普段通りに振る舞い、そして誰しもが明日また会うのだから、という調子で去っていった。
本当に幾人が生き残れるのだろう。
新艦長はじっと自分にとって新しい艦となるヘルヴォールを見つめている。そのひたむきな視線を捉えた時、フィオーナの中から迷いは消えた。
「行きましょう、艦長」
声をかけると、新艦長は小さく、けれどしっかりとうなずいた。
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