第19節「血飛沫の小夜曲(前編)」
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どうして、泣いているんだ……?」
「俺が……泣いて……ッ!?」
言われて初めて、ようやく気が付いた。
ツェルトの両目からは、涙が頬を伝っていたのだ。
まるで、心の中を覗き見られているようで、ツェルトは思わず後退る。
「だったら……俺は、お前に言ってやらないとな……。守りたい人がいるのは……俺も同じ……。だからこそ……」
そして、翔は拳を握り直し……ツェルトに向かって、真っ直ぐに叫んだ。
「この…………どうしようもねぇ馬鹿野郎がッ!!」
次の瞬間、ツェルトの頬に翔の右ストレートが叩きこまれる。
「ご……ッ!?」
後退るツェルトに、翔は再び拳をぶつける。
武器持たぬ両手で、何度も、何度も、ツェルトを殴りながら翔は叫んだ。
「間違ってるかもしれないとッ! 少しでもそう思っているのならッ! 何故その気持ちに従わないッ! 愛する人を否定したくないからかッ!? それともッ! 愛する人と道を違えたくないからかッ!?」
「ぐッ!? がッ!? ごはぁッ!?」
「相手が道を外れた時はッ! 一緒に堕ちてくもんじゃなくッ! 引っ張り上げて、糾してやるのが本物の愛情ってもんじゃないのかッ! 互いの間違いを認め、弱点を補い合い、一緒に未来を見つめて進んでいくべきなんじゃないのかよッ!!」
「本物の……愛……?」
防御しようと交差した銃は、二丁ともあっけなく砕け散る。
翔の拳に打たれるたびに、ツェルトの心から何かが消えていく。
暗くて黒く、重たい何かが砕ける度に、ツェルトの目が覚めていく。
「間違ってるって気付いてるのに目を瞑って、外れた道でも一緒に堕ちていこうなんてな……そんなのはただの依存だ! 愛じゃねぇッ!」
「俺の……マリィへの想いが……愛ではない……?」
「“漢”ならッ! 自分の気持ちを偽るなッ! その迷いを、良心の呵責を、俺に押し付けてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「がはッ!?」
怒涛の連続攻撃に、ツェルトはふらつく。
だが、胸の奥で燻っていた何かが、既に外れかかっていた。
「愛することを諦めるな! この大馬鹿野郎ッ!!」
「ぐ……はぁッ!?」
最後の一発が頬を打った時、ツェルトの心に巣食っていた脆い幻想が、木っ端微塵に砕け散った。
殴られた際にバランスを崩し、勢いよく地面に倒れる。
息を荒げながら、翔は続けた。
「それからな……俺の父さんはお前が思っているより立派な人だし、俺にも大切な人達がいる。ここでくたばってなんてやるものかッ! 響は俺が守る……その為にも負けられないんだッ!!」
「……ッ!」
翔の言葉を聞いて、その拳を身に受けて、ツェルトはようやく理解した。
顔を上げると、翔がこちらに手を伸ばしていた。
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