番外記録(メモリア)・望まぬ力と寂しい笑顔
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らいで済むだろう』
『ドクター・アドルフ……セレナをどうするつもりですか?』
アドルフ、と呼ばれたグラサン研究員は、さも当然であるかのようにこう答えた。
『何って、コールドスリープで処置を取るに決まっているだろう。貴重な第一種適合者だ、みすみす死なせるには損失が大き過ぎる』
『あなた……セレナのメディカルチェックを担当してた……』
『嬢ちゃん、そいつは今夜の晩飯よりも大事な事か?』
『えっ……?』
アドルフ博士はそれだけ言うと、再びマムに視線を移す。
『その寝心地悪そうなベッドから抜け出したら協力しろ、プロフェッサー。あんたの権限なら、あの馬鹿どもも反論は出来んさ』
『しかし、彼らにはどう説明するつもりなのですか?』
『なに、簡単な計算だ。貴重な第一種適合者を見殺しにするか、延命処置していつか治療するかだ。確かにコストで考えれば、実験サンプル一匹見殺しにする方が安上がりだ。だが、それを理由に金の卵を産むガチョウをみすみす殺すのは、馬鹿のする事だろう?』
へッ、と笑いながら、アドルフ博士はそう告げる。
この人、ぶっきらぼうだし口は悪いけど、悪い人間じゃない気がする。
何となく、そう感じた。
『消費主義もここまでくると呆れたもんだ。ここの連中はもう少し、東洋の精神を学ぶべきだな』
『意外ですね……。あなたがここまでするとは』
『アインシュタインは言った。成功者になろうとしてはいけない。価値のある男になるべきだ、とね。馬鹿どもの意見に流されて、ガキ一人見捨てるような医者に価値はないね』
そう断言するアドルフ博士のサングラスの奥には、強い信念を宿した瞳があった。
だから、俺は確信する。
この人は、マムと同じくらい立派な科学者なんだと。
ろくな科学者がいないこの孤児院の中でも数少ない、道徳を重んじることが出来る人間が、そこに立っていた。
『それに俺は、不確定なものが好きじゃないんでね。代わりの適合者が見つかる確率に賭けるより、セレナを治療する方が確実だと見込んだだけさ。そら、行くぞ』
そして、瓦礫の下からマムが救出され、鎮痛剤を打たれた俺は医務室へと運ばれた。
俺が日常的に使っている義手は、ドクター・アドルフが開発した物であり、RN式Model-GEEDも彼とドクター・ウェル、ドクター・櫻井の合作のようなものだ。
あの人に貰った腕で、今度は俺がマリィを守るんだ……って、そう思っていたのに……。
これじゃあ、あの人にも顔向けできねぇな……。
ああくそッ……! 俺はどうすりゃいいんだ……。
どうすれば俺は……これ以上マリアを泣かせずに済むんだ……。
『まもなくランデブーポイントに到着します。いいですね?』
マムからの通告に、俺はベッドを
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