番外記録(メモリア)・望まぬ力と寂しい笑顔
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したのは、わたしの妹なのよッ!!」
マリアの悲痛な訴えも、彼らには届かない。
貴重な第一種適合者とはいえ、研究者達にとってはモルモットの一匹、ただ他よりちょっと上等なサンプルが自分から死にに行ったに過ぎないのだ。
「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ツェルトが地団太を踏み、マリアと共に振り返ったその時だった。
炎の壁に遮られたその先で、セレナがこちらを向いていた。
人形のように愛らしい顔立ちだったその顔は、瞳孔をかっ開き、目から、口から、止めどなく血を流している。
見るものの恐怖心を煽る程にまで変わってしまったそれは、まるで古ぼけたフランス人形のようだ。
それでも彼女は、大好きな姉と愛する兄を思い、最期まで微笑もうとしていた。
「よかった……マリア姉さん……ツェルト兄さん……」
「セレナッ!セレナアアァァァァァッ!!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ツェルトが雄叫びを上げて走り出す。
炎が肌を焼き、シャツを焦がしたが、そんなものは関係ないとばかりに足を踏み込む。
ただひたすら炎の壁を踏み越え、走り続ける彼を突き動かしているのは、誕生日にセレナがこっそりと囁いた言葉であった。
『本当はわたしも、マリア姉さんに負けないくらい、ツェルト兄さんの事が大好きなんですよ?』
あの時は、いつもの悪戯だと思っていた。だが、その言葉にきっと嘘は無いはずだ。
その“好き”の真意が何にしろ、セレナはツェルトの事を本当の兄のように慕っていた事に違いないのだから。
(逝かせないッ! マリィの傍にセレナがいない世界じゃ、俺は本気で笑えない! 届け俺の腕、動け俺の足ッ! クイックシルバーなら絶対、こんな瞬間でも走り抜く……そうだろッ!)
思い描くのは、大好きなアメリカンコミックのヒーローの姿。
アベンジャーズ、X-MEN、ジャスティス・リーグ……。彼らの雄姿を胸に自らを奮い立たせ、ツェルトは限界を超えて疾走した。
「届け……届けッ! 届けぇぇぇぇぇぇッ!!」
あと一歩でこの手が届く、その瞬間に……絶望が落ちてきた。
落下してくる瓦礫に気付いたツェルトは、咄嗟にセレナを突き飛ばした。
飛び込めば自分が潰され、引っ張るには減速が必要だった。
確実に二人とも助かる為には、それが最良の判断だったのだ。
だが……突き飛ばした先が不味かった。
セレナが突き飛ばされた先には、燃え盛る炎の海が広がっていたのだ。
気付いた時には既に遅く、ツェルトの右腕はグシャッという生々しい音と共に、瓦礫の下で潰れた。
「あ……あ、あ……うわああああああああああああああああああああああああッ!!」
それは苦痛からの悲鳴であると同時に、自分が犯し
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