第18節「刻み込まれた痛み」
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とマリアは静かにそう答えた。
「よかった……。マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから……」
調はマリアに駆け寄ると、その背中に腕を回す。
「フィーネの器となっても、私は私よ。心配しないで」
その言葉を聞いて、切歌もマリアの腕の中に飛び込む。
二人を抱きしめ、切歌の頭を撫でながら、マリアは微笑んだ。
調と切歌を抱きしめていると、沈んでいた心が楽になってくる。そんな気がしたのだ。
そんな三人の微笑ましい光景を、ツェルトは数歩離れた位置からそっと見守りながら、拳を握りしめていた。
そこへ、車椅子に乗ったナスターシャ教授と、相変わらずコートのポケットに両手を突っ込んだウェル博士がやって来る。
「二人とも、無事で何よりです。さあ、追いつかれる前に出発しましょう」
すると、切歌と調は慌ててナスターシャ教授の前に立つ。
「待ってマムッ! アタシ達、ペンダントを取り損なってるデスッ! このまま引き下がれないデスよッ!」
「決闘すると、そう約束したから――」
次の瞬間、乾いた音と共に調の頬が叩かれる。
「マム――ッ!?」
続けて切歌も頬を叩かれ、ツェルトは音の度に思わず両目を瞑った。
叩かれた瞬間に思わず手を放してしまい、学祭で買ってきた食べ物のパックが入ったビニールが、地面へと落ちた。
「いい加減にしなさいッ! マリアも、あなた達二人も、この戦いは遊びではないのですよッ!」
「マムッ! それくらい三人だって!」
「いいえ、分かっていませんッ! それはツェルト、あなたも同じですッ!」
「ッ!? そんな……事は……」
反論できず、ツェルトは黙り込んでしまう。
ビンタを貰った切歌と調は、叩かれた頬を抑えながら、両目に涙を浮かべている。
「そのくらいにしましょう」
と、その状況を諫めたのは、意外にもウェル博士であった。
「まだ取り返しのつかない状況ではないですし、ねぇ?」
「ドクター……今度は何を企んでいやがる?」
ウェル博士はわざとらしく肩を竦めると、ツェルトからの問いに笑って答えた。
「いえいえ、二人が二課の装者達と交わしてきた約束……決闘に乗ってみたいのですよ」
これまでもそうだった。
この男がこういう顔をするときは、大抵ろくでもない悪巧みを考え付いた時だ。
これまでにないほどの嫌な予感に、ツェルトは顔を顰める。
そして、彼らの背後には……未だ解体途中の巨大建造物。
月を穿つ一撃を天へと放つために建てられた魔塔、カ・ディンギルが聳え立っていた。
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