第16節「あたしの帰る場所」
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われてしまうと、クリスも否定しようがない。
しかし、まだクリスはその気になれないらしい。
「イキナリ唄えなんて言われて、唄えるものかよ……」
すると、翼がそっぽを向くクリスの隣に立ち、問いかけた。
「雪音は歌が嫌いなのか?」
「──あ、あたしは……」
……その答えに、その場にいた全員が微笑んだ。
ff
拍手と口笛の音が響くリディアンの劇場内。
会場の興奮は、いよいよ頂点に達しようとしていた。
「さて、次なる挑戦者の登場ですッ!」
盛り上がる会場。クリスは緊張しながら、両手でマイクを握り締める。
するとクリスのクラスメイトらは、クリスの背中をポンッと押すと、舞台へと押し出した。
「はっ? えっ、はっ!? へっ!?」
不意を突かれ、テンパりながらも、クリスは舞台の真ん中へと立つ。
「──響、あれってッ!?」
「うっそぉ〜!?」
予想外の人物の登場に、響と未来が驚く。
「雪音だ。私立リディアン音楽院、二回生の雪音クリスだ」
「姉さん、純!? どこ行ってたんだ?」
翼と純が、翔の隣に座る。
翔からの質問に、純は笑って答えた。
「クリスちゃんが逃げ回ってて、ね……」
「何があったんだよ?」
純がその質問に答えるより先に、曲のイントロが流れ始める。
「「「雪音さん、頑張ってッ!」」」
「ん……」
綾野、五代、鏑木らクラスメイトに応援され、クリスは観念したように歌い始めた。
「誰かに手を差し伸べて貰って 傷みとは違った痛みを知る──」
歌い始めると共に、編入してからの思い出が、クリスの中を駆け巡った。
初めて教室に立った日。緊張しながらの自己紹介と、好奇の視線を向けられた時の事。
声をかけてきてくれるクラスメイトから逃げるように、昼食の誘いを断り続けていた昼休み。
教室に馴染めない……いや、馴染もうとしない自分を気にかけて、昼休みになる度に話を聞いてくれた純。
『無理に馴染もうとしなくてもいい。けど、クリスちゃんが思ってるほど、あの子達は怖くないと思うな。僕は』
『ジュンくん……』
純からの言葉もあり、少しずつ心を開いて行った。
「感じた事無い 居心地のよさに まだ戸惑ってるよ──」
声楽の時間、楽しげに歌っている顔を見られるのが恥ずかしいと顔を隠し、皆に笑われるくらいには……。
「ねぇ こんな空が高いと 笑顔がね……隠せない──」
気付けばクリスの顔には、笑顔の花が咲き誇っていた。
誰よりも楽しく唄う彼女の姿は、どんな宝石にも勝る輝きを放ち、人々を魅せていく。
「はわわ……」
「あ……」
その歌声は、客席に紛れた切歌と調をも震わせ
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