風鳴る母(母の日特別編)
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ど、母さんはきっと自分の先が長くない事を悟っていたんだろう。
だから死ぬ前に、父さんとの間に何かを残したいと考えた。
きっと、父さんは悩んだはずだ。そんな事はできない、と断ったりもしただろう。
結婚して初めての……しかもとびきり大きな夫婦喧嘩になったかもしれない。
それでも最後に、父さんは母さんの願いを聞き入れた。
母さんからの、人生最後の願いを……。
実家に母さんの遺品が一つもないのは、きっと父さんの仕業だろう。
母さんが映った写真も見た事がないし、そもそも母さんが居ない理由を聞いても、姉さんには絶対答えなかった。
俺が母さんの事を知っているのは10年前、姉さんが緒川さんと共に家を出た時、父さんから聞かされたのが最初の事だ。
その時は「姉さんが本当の姉さんじゃない」という事だけで、意味もわからず困惑した。
それから何年か経って、叔父さん達や緒川さんから話を聞く事で、ようやく母さんの事を知った。
姉さんには絶対言うな、と口止めもされている。
知られたら姉さんに重い物を背負わせるから、という父さんの配慮なんだろうけど、姉さんには伝わってないんだろうな……。
姉さんが、風鳴の呪縛に囚われないで生きられるようにするために、父さんは敢えて姉さんを突き放した。
その不器用さは、息子ながらに思う所はあるんだけど……姉さんには言ってない。
言ったところで信じてはもらえないだろう。
これは、父さんが自分の口で姉さんに伝えなければならない事だ。
だから……俺はその時が来るまで、敢えて口を閉ざし、見守ろうと思う。
母さんの代わりに……母さんの分まで……父さんと姉さんが、きっと仲良く笑える日が来ると信じて。
そして、この場所を知らない姉さんの代わりに。
仕事が忙しくて、多分来られるのは日が落ちてからになるであろう、父さんの代わりに。
今日は俺が、母さんに感謝を伝えなくては。
「去年は色々あったよ。俺は二課に配属されて、姉さんと同じ戦場で戦ってる。姉さんには後輩が増えて、あと緒川さんとも付き合い始めた。今は世界で歌ってるんだ。凄いよね……父さんも、きっと喜んでる。姉さんが知らないのは残念だけど……」
今度の夏、またマリアと二人でライブをやるらしい。
会えないのはちょっと寂しいけど、父さんの願いはきっと叶っている。
姉さんは一歩ずつ、確実に、世界へと羽ばたいていっているのだから。
「──それから……その……俺にも、恋人が出来たんだ。……名前は立花響。素直で、真っ直ぐで、とても純粋で……太陽みたいに元気な女の子。俺の……世界で一番大事な人だ」
そして、それは俺も同じだ。
父さんと母さんは、きっと俺達姉弟の幸せを望んでいる。
であれば、感謝と
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