三章 天への挑戦 - 嵐の都ダラム -
第39話 天へと駆けのぼる国、ダラム
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によくあったから慣れてるの。シドウと組むようになってからは全然なかったけど、女の冒険者って珍しいからね。
もちろん気分は悪いけど、『あっそ』って思って無視するだけ。それでもしつこく来る人はこうやって蹴っちゃう。手なんて縛られてても全然平気なんだから」
ティアは手を縛られたまま高くジャンプし、きれいな形のフライング・ハイを披露する。
それはシドウの顔面に命中した。
「痛い」
「痛いのがいいんでしょ!」
魔法使い軍団のリーダーは、豪雨のなかにもかかわらず、目を丸くしてやりとりを見ている。
ティアはシドウをからかいながら、思った。
生前の知識を有するドラゴンのアンデッドを手にかける。それ自体が彼にとって精神的に負担であったことはおそらく間違いない。多少なりともショックはあったはずだ。
だがもしも……万一、あれの洗脳処理が不十分で、情まで残っているアンデッドドラゴンだったらどうだったのだろうか……?
その仮定を考えると、ティアは怖かった。今回は不幸中の幸いであった可能性すらあると思った。
「まあ、安心はするかも。この痛み」
そう言いながら、シドウは爪を器用に動かし、ティアの手を縛っている紐を切った。
ティアは「でしょ?」と言って、笑った。
そして魔法使い軍団に声をかける。
「魔法使いさんたち! わたしは貸さないけど、シドウは貸せるんで。灯台の中でドラゴン見学会開くよー。雨天決行どころか豪雨決行だよー」
「中の安全が確認できて、変身できそうなスペースがあれば構わないけど……。なんかアランさんみたいなこと言い出すね」
「ここにいたら絶対言ってるね!」
ティアはまた笑った。
彼――シドウは喜怒哀楽が乏しいわけではない。ここまで一緒に旅をしてきて、それはよくわかる。
なのに、それをあまり表に出すことはない。特に、負の感情についてはそうだ。そのようなものが湧き起こったとしても、自身の中で無理やり消化しようとする。
おそらく、親に言われたことを守ろうとしてきた結果であり、何事も基本どおりにしようとしてきた結果だ。多分この先もずっとそうなのだろう。
その彼の性質、姿勢は、必ずしも良い面だけではないとティアは考えていた。
このドラゴンの巨体。なぜかティアにはあまり大きく見えたことがなかった。様々な感情を溜め込める容量は……実際それほど大きくはないのかもしれない。
では、容量を超えてしまったらどうなるのか。
例によって爆発や暴発はしないのだろう。
が、自壊して潰れる可能性は十分にある。
そう考えていくと、彼と一緒にいる自分の責任は、けっして軽いものではないのかもしれない――。
ティアはあらためて気を引き締めた。
* *
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