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戦国異伝供書
第八十六話 紫から緑へその十一
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「一人の行い、だからな」
「それで、ですか」
「猿掛城から追われても」
「それでもですか」
「また機会がある」
 城に戻るそれがというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「城のことも」
「そのことも」
「そうじゃ、だからな」
 それでというのだ。
「今は待つのじゃ」
「そうすればよいですか」
「この度は」
「そうすればよいですか」
「左様、だからな」
 それでというのだ。
「我等はどうするか」
「それは、ですか」
「機を待つ」
「そうすべきですか」
「耐え忍ぶことも時には必要じゃ」70
 こうも言うのだった。
「だから今はここにおろう」
「そうされますか」
「殿が変えられるまで」
「そうされますか」
「左様、そしてな」
 それでというのだ。
「そなた達に頼むことがある」
「と、いいますと」
「一体」
「それは」
「義母上を頼む」
 彼をというのだ。
「わしのことよりもな」
「杉大方様ですか」
「あの方ですか」
「あの方のことを」
「そうじゃ、わしのことは何とでもなる」
 それでというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「我等はですか」
「松壽丸様よりもですか」
「杉大方様のことを」
「そうじゃ、頼むぞ」
 こう言ってだ、そのうえで。
 松壽丸は自分のことは出来るだけ自分でして家臣達には義母の世話を任せることにした、そしてだった。
 日々学問と武芸に励んだ、その彼に家臣達は話した。
「どうも井上の次男はです」
「松壽丸様を嘲笑っておられるとか」
「乞食若様等と」
「己が城を追い出したというのに」
「そう言われていますが」
「だから言っておろう、気にするでない」
 これが松壽丸の返事であった、彼は今いる粗末な屋敷の中で書を読んでいる。そちらに目をやりつつの言葉だった。
「そうしたことはな」
「そうですか、では」
「我等はですか」
「このままですか」
「義母上を頼む」
 今もこう言うのだった。
「よいな」
「松壽丸様がそう言われるなら」
「それならば」
「そうさせて頂きます」
「ですが」
 ここで家臣達は苦々し気に言った。
「井上家は」
「主家の若君の城を奪い」
「ましてや乞食若様などと嘲笑するとは」
「殿が留守で若殿もご領地を守るのに懸命なのを衝きです」
「この様なことをするとは」
「何と言う不届き者か」
「若しわしに力がさらに」 
 松壽丸は書を読みつつ話した。
「知恵があればどうか」
「この様なことにはならなかった」
「そう言われますか」
「その様に」
「うむ、わしはそう思う」
 こう家臣達に言うのだった。
「そうな、だから今はな」
「武芸に励まれ」
「そして学問に励まれますか
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