第一章
[2]次話
小玉鼠
矢野加恋は婚約者の村山文哉にこんなことを言った。
「最近北秋田の山の方で変な鼠が出るそうよ」
「ヌートリアとかじゃないよね」
「あれは鼠といっても」
白い楚々とした睫毛が長く眉が濃くはっきりとしていて紅の唇が目立っているその顔で言うのだった、黒目がちの目は大きくきらきらとしている。光沢のある黒髪を首の高さで奇麗に切り揃えていて左右に分けていて前髪も奇麗に揃えている。背は一五二位で胸が少し目立つ。白いシャツとロングスカートがよく似合っている。
「ちょっと」
「大き過ぎるね」
文哉も自分で言った。黒髪を左右は短く上は伸ばしていてやや金髪を入れている、一重の小さな瞳でやや面長であり普通の分厚さのピンクの唇は笑みを浮かべている。肌は少し浅黒い感じで背は一七六程ですらりとしている。ラフな黒いシャツとズボンがよく似合っている。濃く太い眉が目立っている。
「やっぱり」
「そういう鼠じゃなくて」
「また違うのなんだ」
「何でも人の足元に来ていきなり破裂するそうなのよ」
「あっ、それ妖怪だよ」
加恋のその話を聞いてだった、文哉はすぐにこう言った。
「小玉鼠っていう」
「妖怪なの」
「人の足元に来て急に破裂するんだよね」
「身体が風船みたいに膨らんで」
「風船みたいに破裂するっていうと」
それならとだ、文哉は加恋にさらに話した。
「それってね」
「妖怪なのね」
「小玉鼠じゃない」
「よく知ってるわね」
「だって俺大学民俗学だったから」
それでというのだ、今は八条自動車秋田支店でディ―ラーをしているが大学時代はそうだったのだ。加恋は八条マート秋田店に勤めている。
「わかるよ」
「妖怪のことも」
「妖怪は民俗学の中で学ぶからね」
それでというのだ。
「俺も妖怪のこと知ってて」
「小玉鼠のこともなの」
「知ってるよ」
「そうなのね、ただね」
「ただ？」
「何で人の足元に来て破裂するの？」
加恋は文哉にその鼠が妖怪であることを聞いてから今度はこのことについて尋ねた。肝心のそのことについて。
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