第三章
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「連れて行くのです」
「そうであるか」
「ではです」
「うむ、牛も連れて行こう」
「さすれば」
「しかし」
ここ容堂はこうも言った。
「百姓にとって牛は大事なものじゃ」
「畑仕事に使いますからな」
「出来れば犠牲にせずにな」
「無事にですな」
「百姓に返さねばな」
「そのことも心掛けておりまする」
東洋は主に微笑んで答えた。
「ご安心を」
「それではな」
「ではですな」
江川も言ってきた。
「道をさらに」
「進んでいく」
東洋は江川にも答えた。
「その様にするぞ」
「それでは」
こうした話をしてだった、そのうえで。
一行は道を進んでいった、そうしてその七人同行が出るという場所に入るとだった。
江川の目が剣呑なものとなり牛も立ち止まった、ここで江川は容堂に今にも刀を抜かんとする様な声で話した。
「殿、お気をつけを」
「出たか」
「はい、吉田様も」
東洋もというのだ。
「出来れば牛の股と股の間から」
「覗けというのじゃな」
「ここは」
「そうすれば見えまする」
今自分が見えているものがというのだ。
「ですから」
「そうか、ではな」
容堂は江川の言葉に頷いた、そして。
東洋と共に退くそうして牛の股と股の間から道を覗いた、すると。
七人の死に装束を着て蒼白の顔の者達が前から歩いてきていた、東洋と共にその者達を見た容堂は言った。
「あれがじゃな」
「七人同行ですな」
「亡者そのものじゃ」
「まさに人をあの世に連れて行く」
「そうした者達であるな」
「左様ですな」
「ではじゃ」
容堂はまだ酒が残っている、しかし落ち着いて述べた。
「ならばな」
「それならばですな」
「道をどけるとしよう」
今はそうしようというのだ。
「江川そして牛もな」
「それがしもですか」
「まさか死にたいのか」
容堂は江川に問うた。
「このままあの者達とぶつかって」
「それは」
「違うであろう、ならな」
「ここは、ですか」
「あの者達は道の真ん中をしっかりと歩き」
容堂は七人同行を今も牛の股と股の間から見ている、そのうえでの言葉だ。
「外れることがないな」
「確かに」
江川が見てもそうだった。
「それに我等も見ておりませぬ」
「あれは死人の目じゃ」
容堂はこうも言った。
「人を見ることもない、つまりな」
「我等もですか」
「観ておらぬ、ならな」
それならというのだ。
「ここは避ければな」
「それで、ですか」
「死なずに済む、まずはやり過ごすぞ」
こう言ってだった、容堂は東洋と江川そして牛それに自分自身をどけさせてだった。
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