第四章
[8]前話
「この通りな」
「寝たんだな」
「おう、ぐっすりとな」
「俺もだよ、結局な」
「山地乳ってのは出てこなかったな」
喜多八はこうも言った。
「どうやら」
「出て来てたら今頃な」
「俺達のどっちかがお陀仏だよな」
「そうなってたぜ」
山地乳に息を吸われてというのだ。
「本当にな」
「困ったことだな、しかしな」
「しかし?」
「昨日の夜の人達もいるぜ」
喜多八は湯舟を見回して弥次郎兵衛に話した。
「昨日その山地乳の話をしてたな」
「あっ、本当だな」
弥次郎兵衛も見れば実際にだった。
その客達もいた、その客達はまた山地乳の話をしていたが。二人はその話を一緒に湯に入りながら聞いて。
話が終わったところでだ、まずは弥次郎兵衛が言った。
「俺達今何処にいる?」
「箱根だよ」
そこだとだ、喜多八は答えた。
「箱根の湯だよ」
「いい湯だよな」
「ああ、しかしな」
「箱根だからな」
「ここは奥州じゃねえぜ」
「山地乳ってのはそっちに出るってな」
「今あの連中言ってたな」
昨日その妖怪の話をしていた彼等はというのだ。
「実際にな」
「そうだよな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「この箱根にはな」
「関係ねえな」
「そうだな、何かな」
「俺達意味ないことで騒いでたんだな」
「出て来たら息を吸われて死んじまうってな」
「ったくよ、箱根と奥州じゃ全然違うじゃねえか」
「箱根八里がある位だぜ」
箱根といえばというのだ。
「とんでもねえ道だけれどな」
「この道は妖怪じゃねえからな」
「関係ねえな」
「だよな、じゃあな」
「ああ、山地乳のことは忘れてな」
「お伊勢さんに向かい続けるか」
あらためて行き先の話もした。
「そうするか」
「あと京都に大坂な」
「そうしたところも行こうぜ」
こうした話をしてだった、二人は今は湯を楽しんだ。もう山地乳のことは忘れて旅の話をした。
だが箱根を出て次の宿で夜に二人で飲んでいる時に窓の外に蝙蝠を見てだった、喜多八は弥次郎兵衛に言った。
「今の蝙蝠ひょっとしてな」
「だからここは奥州じゃねえだろ」
「山地乳じゃねえか」
「安心していいぜ」
「そうだよな」
笑って話してだった、喜多八はあらためて飲んだ。そのうえでこれからのことをさらに話していくのだった。
山地乳 完
2019・11・16
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