第三章
[8]前話
入道の尻から尻尾が出ていた、その尻尾はというと。
「鼬か」
「狐か狸か貉か鼬かと思っていたが」
幻庵は飄々として話した。
「最後のそれであったか」
「ううむ、正体まで見破られるとは」
「ほっほっほ、迂闊だったのう」
「全く以て踏んだり蹴ったりだ」
「踏んでも蹴ってもおらんぞ」
「気持ちはそうじゃ、全く以てしてやられたわ」
入道は地団駄を踏んで言った。
「今度は何も知らぬ者を驚かせてやるわ」
「全然懲りてないのう」
供の者は入道のその言葉を聞いて言った。
「こ奴は」
「懲りてたまるか、また今度じゃ」
こう言ってだった。
見越し入道は姿を消した、かくしてこの件はとりあえずは一件落着となったが。
幻庵は小田原城に戻ると氏康にことの次第を話してこう言った。
「この見下ろせばいいことをです」
「民達に伝えますか」
「そうすればです」
「見越し入道にこかされる者もいなくなりますか」
「はい、全ての者に伝わることもないでしょうが」
それでもというのだ。
「知る者は知り」
「そしてですか」
「こかされる者はかなり減ります」
「そうなりますな」
「だからこれでいいかと」
「そうですか」
「はい、あやかしや変化といえど」
彼等の行いでもというのだ。
「必ず対するやり方があります」
「それを知り広める」
「それが大事です」
「さすれば困らさせられる者は減る」
「全てはないにしても」
それでもというのだ。
「減ることは減りますので」
「この度もですな」
「民達に伝えましょう」
「それも政ですな」
「左様です、民達をあやかしや変化の悪戯から救うことも」
どう対せばいいことを伝えてだ。
「政です」
「そういうことですな、では」
「この度のことは」
「叔父上の言われる通りにしましょう」
氏康は幻庵の言葉に微笑んで頷いた、そしてだった。
実際にその様にした、そうして見越し入道にこかされる者をかなり減らした。後北条家に伝わる逸話の一つである。かつては妖怪をどうするかも政であり後北条家はそちらも怠らず民達の為の政を行っていたという逸話である。実に面白いと思いここに書き残させてもらった。
見越し入道 完
2020・1・17
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