情熱の舳先
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ん」
まだ間に合うか、とシーツを跳ね。
「……あ」
「見ぃつけた ?」
グラス片手に窓の前に陣取り、杖をこっちに向けたルイズと目が合った。
逃げ場なんて無かった。
少しずつ歩を進めてくるルイズ越しに、河が見えたような気さえする。
あれが忘却の河というものだろうか。
「……キュルケ」
「は、はい! ……はい?」
一声で幻覚から立ち直されたキュルケは、不思議なものを目にした。
「どうしてよ」
「ルイズ?」
先ほどまでの張り付いたような表情はどこへやら。
軽く俯き、眉が下がり、なんだか今にも泣き出しそうな上目遣いで、拗ねた様にこっちを見ている。
あ、泣いた。
「なんで、いきなり逃げるのよ!
ばか! このばか!
嫌いなの? そんなにわたしが嫌いなの!」
いきなりなにを言い出すんだろうかこの娘は。
ぽかぽか軽い音のしそうな拳で胸を打ってくるルイズを見ながら、キュルケの思考はつい先ほどまでの恐怖と目の前の娘が≒でも結べず、だらだらと情報を受け流していた。
「ねーねーリュコー。
もう結構な距離進んだけど、今日はこの辺りで良くない?」
ふと目が覚めた。
「ん……まあ、そうだな。
宿場はとっくに通り過ぎたし、水場も近い。
……お嬢さん、本当に野宿でいいんですね?」
なんだろう、視界がむちゃくちゃ暗い。
「問題ない」
というか、全身が隅々まで痛い。
「心得ました。
それじゃあ、野営の準備をしますので。
しばらくお待ちください」
「「ん」」
ごとりと音がして、重心が前によって、顔面をぶつけて思い出した。
「カル、頷いて誤魔化そうとしても無駄だからな?
水汲むか薪拾うか選ぼう、な?」
「あう。じゃあ、薪で」
そういえば樽に隠れてたんだったか。
「じゃあ、俺が水な。野良に気を付けろよ?」
全身が痛いのはあれか、回転くらったからか。
「……水、空の樽が一つあるから、それに」
あ、思い出したら気持ち悪くなってきた。
酔う的な意味で。
「うん? 確か運んだ中には、空樽はなかったはずですが……」
というか、さっきから聞こえるこの声は一体。
「? そんな筈は……」
……ん? 何か外が……
「……サイト?」
「……タバサ?」
樽の中、蹲っている彼と、目が合った。
蓋を持ち、覗き込む彼女と、目が合った。
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