第四部
水の哀悼歌
湖沼の国の姫陛下
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「後は、これだな。
全員が撃墜されたらしい艦載竜騎士隊についてだが……生存者は居たのか?」
「(何も言うまい)……第一分隊は完全に壊滅で、生存者は0。
第二分隊についても壊滅だが、こちらは二名が発見、保護されたそうだ」
「……そうか。それで、その生存者は?」
「どちらも貴族だったからな。この宿の、一つ下の階に居る。
といっても、片方は未だ意識を取り戻していないそうだが」
「……そうか。無事、目を覚ましてくれるといいが」
部屋にはただ、沈黙が満ちた。
しばしの間を、置いて。
「なあ、ホレイショ」
「うん?」
「君、この忌々しい戦争が終わって、国に帰れたとしたら、どうする?」
ふむ、とホレイショはしばし考えると、
「そうだな。とりあえず、現場の軍人は廃業したいもんだよ。
流石に、またあの光に包まれるかと思うと……どうにもね」
違いない、とボーウッドは笑った。
「奇遇だな、僕もそう思うよ。
軍人を辞めた後は……そうだな。
まずはアルビオンの、色んな風景を見て廻りたいものだね」
パレードの熱気は、いよいよもって最高潮に及ぼうとしていた。
最前を行くアンリエッタは、沸き立つ観衆に手を振り返している。
その面持ちは、無意の笑顔。
はにかんだような微笑を口元に湛えつつ、アンリエッタは今、迷っていた。
「ご気分が優れぬようですな、殿下。
まだ悩んでおいでですかな?」
隣に座したマザリーニが、随分と久方ぶりに穏やかな笑みを振りまきながらそれとなく問うてくる。
それはそうだろう。
「本当に、わたくしなどが即位してしまってもよいのでしょうか?
こんな、自分のことばかり考えているわたくしでも。
まだ、母さまが即位する方がよいのではないですか?」
ずっと空位になっていた、トリステインの王位に自らが就くなど、ほんの十日ほど前には望外の彼方だったというのに。
当面はまだ誰とも結婚せずに済みそうというのは僥倖ぎょうこうなのだが。
「太后陛下は、今も亡き陛下の喪に服しておいでです故ゆえ。
それにその陛下ご自身もまた、今回の件には賛同されておいででした。
あの戦場でも申しましたが、今この弱い国には強い王が、白の国の凶行を押し返した女王の即位こそが何よりも望まれているのです。
民からも、貴族からも。他国からでさえも」
強い王。
本当に自分がそれに成れるならば、とアンリエッタは表情を崩さないまま、憂鬱な溜息をついた。
あの瞬間
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