第四部
水の哀悼歌
湖沼の国の姫陛下
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ルビオンの強力な空軍を一国にて討ち払ったトリステイン王国は、今なお空中戦力の整わないゲルマニアにとって無くてはならない盟友である。
少なくとも今のアルビオン政府が健在である内は、強硬な態度を示せようはずも無かった。
アンリエッタは、確かにその手に自由と責務を掴み取ったのだ。
賑やかな通りを見下ろせる、可も無く不可も無い平凡な宿屋『錫の翼』亭。
その三階の一室より窓際にもたれてパレードを眺める、ラフな格好で浅黒い肌を晒した敗軍の将官が二人。
『奇跡の太陽』によって墜落させられたレキシントン号の艦長、ヘンリ・ボーウッド士爵。
同じくレキシントン号乗艦の小太り参謀長、ホレイショ・D・ゲイツ。
彼らは今、捕虜として現在進行形でこの宿に軟禁されていた。
捕虜と言えど、貴族にはそれなりの扱いという物があるのだ。
不自由と言えば精々、階層ごとに廊下に二人の見張りが居ることと、杖を取り上げられたくらいなもの。
最低限不快に思われない程度の衛生レベルに衣食住を整えたこの環境のもと、彼らはのんびりと女王戴冠の儀を待っていた。
「あれから、もう五日、か。
見なよホレイショ、『聖女』陛下が途みちを往くぜ」
「おいおい。今はまだ殿下のはずだろう」
二人は先頭を来る白い馬車に座すその少女を観やり、皮肉気に語っている。
「しかし、こうして見てみると……若いな、彼女は。
ただでさえハルケギニア初の女王だというのに、この国はまだ始まったばかりの戦争を生き残れるのかね?」
「ホレイショ。君は、もう少し歴史を勉強するべきだ。
確か女王即位の前例はガリアで三例、このトリステインでも一例はあったろう」
む、とホレイショは決まり悪く眉間を揉む。
「いかんいかん、どうもまだ戦場の気分が抜けきってなくてな」
「いや、そりゃ何の関係もないだろう……」
気持ちは分からないでもないが。
「しかし、歴史か。
してみれば、我々の敗北もまた、彼女の輝かしいであろう歴史の一ページを飾る勲章リボンの一つに過ぎないのかもしれないな」
誤魔化したな、と思いつつ、ボーウッドは首肯する。
「なあ、ヘンリ。あの閃光、何だと思う?」
「さて、ね。少なくとも、僕たちの知る何かでは無い様だったが……」
あの時、空中艦隊を包み込んでいた謎の光球が直接的に出した被害は結局、艦ふねに積載されていた風石とその周囲を砕いただけに留まっていた。
直接それを握っていた操舵士など、風石の近くに居た者の多くは艦の端まで吹き飛ばされるほどであった。
だが風石を握っていた腕は小さな裂傷
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