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fate/vacant zero
竜が翼迫る雲の上
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で生まれ育った者がトリステインを訪れて最初にすることはむせて口に手拭を宛てること、という冗談のような通例まである。


 そんな環境であるため、ただでさえ高空のアルビオンの更に上空を往く艦ふねの更に更に高く飛ぶ事が出来るものなど、同じ環境で生まれ育った竜族の生え抜きと、極一握りの騎士のみだった。

 侵略してくる他国(ゲルマニアとかスカンザとか)の艦など、同じ高さまで上がってくることさえ不可能であったのだ。

 故に竜騎士はアルビオン艦隊の要であり、最強の号を冠する誉れの騎士であった、わけだが。


 つまるところ、『上を警戒するくらいなら横や下を狙うことに重点をおくべきだ』という風潮が、アルビオン空軍には存在しているのであった。



「まあ、先の爆発といい、今この上空といい、ワルド子爵もああして奮戦してくれている。
 上の怪鳥も下の風竜も、こちらに突っ込んでこない限りは警戒しておくだけで充分だ。
 それより今は、港を押さえる方に集中したいからな」

「弾にかなり風石を持っていかれちまいましたからね。通常航行であと、三十分くらいですか」

「そうだ。守りをカ殴り捨てて弾を曳き上げても、せいぜい一・二時間伸ばすのが精々だろう?
 どの道、いまあの港を奪えねば」

「我ら共々、巨艦は大地の木片と化すのですな。
 全く、こうなると堅実に陣など張ってしまったのが悔やまれます。
 不明になっても未だ健在とは、なかなかどうして総司令官殿は一味違いますな。

 嫌な意味で」


 今は床に伏しているサー・ジョンストンを盛大に皮肉ののしる参謀長だが、更なる皮肉どくを吐こうとしたところでボーウッドに遮られた。


「その辺りにしておけ、ホレイショ。
 提案したのは彼あれだが、それに乗ってしまったのは我々で、彼あれが戦術眼など微塵も持たない輩だということを忘れていたのも我々なのだ。
 彼あれに愚痴をこぼすくらいなら、眼前の敵に集中した方がずっと健康的というものだろう?

 ……精神的に」


 参謀長は憮然としてそれを聞き流していたが、ボソリと最後に彼が呟いた途端、様相を崩してこの堅苦しい同期艦長の肩を叩いた。

 と。そこに伝令が一人駆け寄り、一つ伝えた。


「港町ラ・ロシェール、必中距離です!」


 ボーウッドは一つ頷くと、揮下の艦に砲撃命令を下した。

 応じた砲列艦が一斉に鉛を吐き出す。

 対するラ・ロシェールも薄まる雲を掻き集めているが、薄くなったそれでは全ての弾はもはや防ぎきれず。

 多くの弾雨が市街地に到達し、岩の破片を撒き散らす。


 初撃は上々、このタルブの戦いに措ける、最後となるだろう艦隊行動が始まった。






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