竜が翼迫る雲の上
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線をやると、歯噛みする。
少し、無茶をさせすぎたか。
「このまま引き返したら、学院にギリギリ着くか着かねえか。
奇襲に回避に、都合20回くらいが限界か?
アフターバーナーに燃料喰われ過ぎた」
とはいえ。
風竜の限界が近い。
見間違うはずもなく、あの竜に乗ってるのはワルドのヤロウだ。
小僧の射程から逃れるにせよ、逃れる小僧を追うにせよ。
どんなに不意を衝こうが掠める様にかわして死角に潜り込む野郎だ。
常に全速力でなければ敵わないのだから当然といえば当然か。
温存する余裕なんぞ、あるはずもなかった。
その上――
おまけに――
「あれだけ翼を穴だらけにしながら、速度が小揺るぎもせんとは。
一体、どれだけの秘薬を注ぎ込んでおるやら」
「あんだけ攻撃されておいて、なんであの竜は速さが変わらねえんだよ。
まさか、アレも風韻竜とか言わねえだろうな?
それとも、ドラゴンってあれぐらいタフなのが普通なのか?」
ジャンは、F-15イーグルの動力を知らない。
才人は、ドラゴンという種族の限界を知らない。
お互いに対する無知。
それが『相手が全力を隠している』という幻影を生じさせ。
結果的にお互いに油断を許すことのない、緊張と集中力を供給し続けている。
この白熱し続ける鬼ごっこは、まだ少し、いま少し続きそうであった。
「どうしたもんかね」
「どうしたものかな」
どちらかが、その思考のループを終えるまでは。
止まれば負ける。
そう彼らが、信じ込んでいる限りは。
「あははははははははh」
どうしよう。
数瞬前と同じ様でまるで違う迷いが、わたしの動きを固めている。
正面には、わけもわからず笑い続けるルイズが一人。
声を掛けなければ考えも先に進められないはずなのだが、どうにも踏ん切りが付けられない。
母さまもいつだか言っていた。
“突然笑い出す人は風の精霊シルフに魅入られた人だから近づいちゃダメよ”と。
……妖精ニンフだっただろうか?
「嬢ちゃん、そんな変な余裕持ってないで早くしなよ。
空の方が、また騒がしくなってきやがった」
地下水シェルンノスの声と、遠く響く大砲の発砲音に紛れて、彼が矢を射る音が微かにする。
空を見上げれば、大艦の向こうでひっきりなしに方向転換している、黒い小さな鳥影が。
……二つ見えた。
急いだ方が、いいかもしれない。
怯む心に杖をくれてやり再び顔をルイズに向けると、彼女も丁度遠くラ・ロシェールの方から、視線をこちらへと向け直すところだった。
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