霧に煙るは颪か灰か
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「父さん、兄さん! 後ろ!」
その迫る嘴に気付けたのは、思考すら出来ずに自失していた彼女を置いて他になかった。
「攻撃が止んだ! 今だ、相棒――飛べ!」
「簡単そうに言うな! くっそ、ちょっと無茶すんぞ折れんなよ!?」
「んなあっさり折れてたまっかぃ! オレっち伝説だぞっとぅおぉおおお!?」
ぐるん。
操縦桿を斜めに引ききる。
機首が上がり、翼を平手打つように半回転。
間の抜ける擬音を連れて、天地をそのままに進路を180゚ターンしたF-15イーグルの真正面、敵の背を捉えることに成功した。
「ぬぉうぁう。気めぇ、もう背後取ったんか。
んじゃ撃ちな相棒、胴じゃなく翼狙えよ!
竜の猟奇死体イークラブシューをそう何度も見る趣味はオレっち持ってねえぞ!」
「俺だってねえよ!」
背後、というか尾を取った竜に機首をあわせ、操縦桿裏で人差し指と薬指――両翼機関砲――のトリガーを握り、
「っくぅ!?」
赤い絨毯、踊る臓物、ドラゴンムース。
数と質グロさを増してフラッシュバックが信号無視。
震える手を押さえるように操縦桿を両手で握り、だがふらついた機体はトリガーを絞るに至れない。
不運な竜の挽肉と唐竹割ルドの幻影が生んだこの時間。
竜騎士は一人、動いていた。
「――ッ相棒! おい相棒、早く撃て! 気付かれた!」
「く、っそぉ……!」
立て直しを試みる視界の中、狙いをつけていた竜が、空を転がりこんだ別の竜に弾かれて照準外に吹っ飛んでいく。
飛び込んできた竜はその場で前転。
顔、後頭、主の居ない背、尾。
次々と目に映る部位が入れ替わり――
「相棒ぉ!」
再び見えかけた顔、そのギラついた火の燈る目と、大きく開いた顎の奥、赤黒く光る何かが見えて。
――。
……それは意志の向こうの力、恐怖という名の感情と共に。
気付けば3つ全てのトリガーは押し込まれ、目の前の炎を吹いた竜は、己の躊躇い諸共に首と翼を砕き散らした。
「あ」「げ」
それに気付いた時には、既に機体は炎の内。
終わった、と思った。
次の一瞬には、熔けて焦げて灰になっているのだろう。
痛みや熱さのような感覚がどの辺りまで続くのかは知らないが、これで自分は死ぬのだろう。
「……あれ?」
覚悟を決めて一秒と経たない間に、炎の名残で紫色した空が見えた。
なんで無事なんだ。
「は、あはははは。マジ感謝しちゃうオレっち。
とと、
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