霧に煙るは颪か灰か
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かからないだろう。
急がなければ。
「シルフィード、ナイフを」
「きゅい」
シルフィードの首に下がっていた地下水シェルンノスが、目の前に差し出される。
……括りつけておいた、千切れた縄ごと。
面倒だからって掻き切らないの。
詮無いことを思いつつ、差し出された柄を手に取る。
さっと全身の触覚に波が走り、地下水シェルンノスと意識が接続リンクする。
使い手の意識を強奪しない場合の、正式な使い方らしいそれを通じ、私の精神力が地下水シェルンノスの鍔を抜け、軽く増幅されて私に還る。
正しく精神力が循環しはじめたのを確認して、内に向いた意識を外へと戻した。
異常は無い。
ならば次だ。
「イルククゥ・ ・ ・ ・ ・」
「きゅ?」 「……誰?」
私ではない誰かの与えた名で使い魔かのじょを呼ぶ。
それは、合図。
明らかに戸惑った目で、私を……正確には、きょとんとしたルイズを見つめるこの幼い竜に、
「気にしなくていい。
あなたは今からしばらく、『地下水わたし』の使い魔だから。
気兼ねなく、全力で捕まえて。
ただし、壊さないように」
首肯と言葉で、GOしんげきを伝えた。
「……わかった。
ふりおとされないよう、気をつけてほしいのね、お姉さま。あとピンクいの」
「ぴっ――!?」
耳元で、引き攣った息を呑む音がした。
けれどシルフィードには聞こえていないし、私は彼女が振り落とされないよう、彼女の腕を挟みこみながらしがみつくことに全力を注いでいる。
ついでに構う余裕も無いので、一言だけ伝えた。
「しっかり捕まえてて」
そうしてルイズが混乱しながらも姿勢を低くするのを確認し。
シルフィードは、声を紡ぐ。
〔風よ、大いなる大気よ。吾が進路さきゆきを遮ることなかれ〕
――顔や衣に叩きつけられていた圧が、それだけで失せた。
遥か眼下では、絶えず大地が流れている。
間違いなく空を飛び続けているのに、風をまったく感じないのだ。
「え、え、エぇええ……? りゅ、竜がしゃべっキぃャぁあああああ!?」
驚くルイズの声が、悲鳴に代わりながら一瞬置き去られた。
声がちゃんと聞こえているから、『凪サイレント』とも一線を隔している呪文のようだ。
というか、おなかがとても苦しい。
抱え込んだ腕が、加速した速さだけで軽くめり込んだ。
どういう速さをしているのやら、視界の黒い猛禽が見る見る大きくなってくるのもわかる。
これなら、間に合うだろうか?
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