雲影二つ
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、体をほぐしてからではだめかね?」
「いいですけど、出来るだけ早くお願いします!
俺は先に運び始めてますから!」
何かやけに焦っている才人に、コルベールはどこか覚えのある既視感を抱いた。
それが、つい先ほどまで見ていた、懐怖なつかしい夢の記憶に端を発するからだろうか。
彼は、知らずの裡こう訊ねていた。
「そんなに、急がなくてはならないのかい?」
「急がないと、間に合わなくなるかもしれないんです!」
答えは、即座に返された。
だから、こう訊ねた。
「それは、誰のために行かなくてはならないんだい?」
「優しくしてくれた人のために、です」
答えは、僅かな間と不振げな疑問符を挟み置いて返された。
それを見取り、こう重ねた。
「それは、どうしても君が行かなければならないことかい?」
「……俺以外の、誰にもアレは動かせませんから」
答えは、迷いの霞を掻き分けて返された。
だから早く、と急かす才人を遮り、なお訊ねる。
「それは、他の何を置いても優先しなくてはいけないことかい?」
「…」
答えは、項垂れた頭と沈黙で返された。
だから・・・、一つ頷いてコルベールはこう重ねた。
「サイトくん。君が何をしようとしているかは、私にはわからない。
ただ、一つだけ言わせてほしい」
ぎり、と握り締められた才人の手を見て。
「"飛行器の内から見る空がどう見えるか"――帰って来たら、是非教えてくれたまえ」
え、と溢し、目を見開きながら見る才人に笑いかけながら、コルベールは彼の背を叩き促した。
「少し話し込んでしまったな、早く油を運んでしまおう。
──急がなければならないんだろう?」
我が意を得たり、とばかりに弾け出した才人の返事は、とてもいい色をしていた。
コルベールにとって、それはどこか我が事のように嬉しく感じる出来事だった。
「待ち ぁさい。ご主 人様の 許しも なく、ど 行く、気よ」
なにやら足を引き摺りながら息も絶え絶えになったルイズがF-15の鎮座する水の塔前に現れたのは、丁度燃料樽が空になり、いざ鎌倉ならぬタルブへと、才人が操縦席へ手を伸ばした時のことだった。
コルベール先生は、今この場には居ない。
邪魔になりそうな樽を片してくれていたため、研究室の方に向かっているのだろう。
才人は、振り向くことなく答えた。
「タルブの村だよ」
「な、何しに行こうってのよ!」
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