雲影二つ
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もう、始まってしまったのかね?」
「是はい。 敵降下部隊はタルブの大平原を占領し、ラ・ロシェールの我が軍と睨み合っております」
「……平和は人を脆くする。
十年の安寧に胡坐をかいていた我らが軍と、外道ながらも内戦を生き抜いたアルビオン軍では、勝負にもなるまいに」
ほんの一月ひとつき前、油断と慢心から敗北を味合わされたばかりのオスマン老の呟きに、兵士は陰鬱な声で返す。
「ボルドー軍港より蜻蛉返りに舞い戻った送迎艦隊が、敵に夜襲を掛けたのですが……結果は、敵艦の半数を墜とすという戦果の代償に、我らは動かせる殆どの空中戦力を喪失させられたそうです。
現在の敵軍は巨艦『レキシントン』号を筆頭とした砲列艦4隻と、降下した兵が二千余と見積もられました。
対する我らは、申し訳程度に砲の設けられた小凧が3隻、どうにか緊急に掻き集められた兵力が二千。
国内の軍備が不足気味であったこともですが、敵艦隊旗艦である『レキシントン』号を夜襲で墜とせなかったのが致命的です。
ほとんど無傷の竜騎兵に守られた彼の巨艦は、残存する手札では墜とせますまい。
それで……詰みです」
重苦しい空気の帳とばりが部屋を包む。
「戦況は? それ以外の国はどうしておるのかね?」
「日の出の頃、タルブを蹂躙しつくしたアルビオン軍が、ラ・ロシェールへと進軍を始めたそうです。
ゲルマニアへは援軍を要請しましたが、先陣が到着するまでどう急いでも半月掛かるとか。
ガリアを筆頭とする南方諸国には……何の動きも見られません。
以前の会談の通り、鉾先が自らに向けられるまでは静観を決め込むようです」
老は額に手をあて、空しげに首を振った。
「…試金石にするつもり満々じゃな。
ラ・ロシェールが陥ちれば、後は油に火を落とすようにこのトリステインは潰えるじゃろうて」
学院長室外のホールにて扉に張り付いていたルイズは、さっと顔を青褪めさせた。
姫様の結婚式が延期になった、これはまだいい。
明日までに詔をほぼ零の状態から書き起こさねばならなかった身としては願ったり叶ったりだった。
だったが。
戦争が始まったとはどういうことだ。
なにより、『王軍』とは何のことだ。
今、このトリステインを治めうる王族は僅かに二人、マリアンヌ皇太后陛下とアンリエッタ姫殿下のみのはず。
では、王軍を率いているのは皇太后陛下?
……そんなハズはない。
皇太后陛下は、誰より争いを忌まれていた方だ。
姫様のためにと動くのであれば、あの方は"よりよい降伏"を迷わず選択されるだろ
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