雲影二つ
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かさねえ」
デルフの声が、耳奥にやたら響く。
動かさないんじゃねえ、動かないんだよ、と――
「怖さで足が竦すくんだか? 別にいいんだぜ、尻尾巻いて帰ってもよ」
か細い反論を声に載させてすらくれない。
息も唾も、ひっくるんで胃に突き落ちた。
「誰がお前さんに『助けてくれ』だなんて頼んだわけじゃねえ。
元々どうしようもねえくらい絶望的なんだ、怖さに震えて逃げ出したって文句言う奴なんぞ誰もいねぇさ」
無言。
「さあ。どうするね相棒?
それでも血煙たなびかせに戦場へ向かうか?
それとも何もかも放り出して、ここから逃げ出すかね?」
「んなの、決まってんじゃねえか」
その答えは、とても簡単だ。
「――本当に、それでいいんだな?」
強く強く右足を踏み落ろし、機首を右に、ラ・ロシェールの方へ流しただけ。
ただそれだけの、明確な意思表示。
「当たり然だ。
あれだけ啖呵切っといて引き返したりしたら、またルイズに虚仮にされちまう。
何より……」
ペダルから足を外す。
もはや、機首はラ・ロシェールの――延ひいてはタルブ領の方角を逸れる事は無いだろう。
「俺は、俺が、俺を許せなくなる。そんなの御免だ」
それこそが、紛れも無い本心。
だから、絶対に見捨ててなどやらないのだと、深く色濃く心おそれを纏うくるむ。
「……いやはや。
バカだね相棒。先代に負けじ劣らじのバカだ」
「るせえ、バカバカ連呼すんなバカ剣。……むしろお前が言うな」
「ひっでえなぁ、誉め言葉だぜ?」
どこらがだ。
目標から目を逸らさずぼやく俺に――
「だって相棒がそう・・じゃなけりゃ。 俺ら・は今、ここにこうしていなかったんだからな。
それは誇ってもいいと思うぜ、オレっち」
「――は?」
――俺に、機体の風防に、白い影が覆い被さった。
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