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fate/vacant zero
雲影二つ
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けに、その不在は何かしらの急を要する事態を意味することが多い。

――ォォオオォォ――

 では、急を要する事態とは何か?


 そう考えかけた矢先、よく分からない音が窓の外から私の耳に飛び込んできた。

「ぉ、おい……ギムリ。 あれ、空見てくれよ、あれ」

「うん? ――な、なぁ?」

 その耳慣れない音に最も近い窓際に座る生徒たちが、俄かにざわめきだした。

 聞き取れる会話にあった『空』という単語が何故か気に掛かった私は、視線を本から窓へと移す。

――ォォォオオオオオオォォン――

 窓の向こうに映る、狭く切り取られた空の中。


 鳴き声とも風の唸りともつかない音を上げ、空に舞い上がった『竜の羽衣』――確か彼は、фエフ 15 Еглыイェーグレゥとか言っていただろうか――"それ"の、猛々しく大気を切り開く雄姿があった。









Fate/vacant Zero

第二十九章 始編 雲影二つ







 ――何故どうして、こんなことになってしまったのだろう。


 朝靄の名残が噴き散らかされた中庭に、ルイズは体の痛みも忘れてへなりと座り込んでいた。

 その目は落ちる涙を気にも留めず、ただ見る間にどんどん小さくなっていく彼サイトの機影かげを追うばかり。


 ――何故どうして、こんなことに。


 本当ならば彼女は今頃、ゲルマニアへと向かう馬車の中で才人と顔を突き合わせ。

 無い知恵絞って思いつかない詔みことのりに吽々と悩んでいるはずだったのに。


 ――何故どうして。


 あの馬鹿はここに居ないんだろう。

 私は、置いていかれたんだろう。


 ――何故どうして。


 あの馬鹿に、もう会えないなんて感じてしまったんだろう。


 ――何故どうして。

 私は、魔法が使えないんだろう。



 ――何故どうして。


 何度目になるかも分からない、分かりきった自問を愚直に続けるルイズ。

 その投げ出された体を地に下ろし、そのただならぬ様子に掛ける声を思いつかないコルベール。


 どちらともが一言も発さない、発しない、発せない。


 朝鳥の声さえ空しく響くそんな気まずい空間は、才人の機影が肉眼で見えるか見えなくなるかという頃。

 珍しく慌しく駆けるタバサが首根っこを引っ掴み、滑るように飛び込んできた竜シルフィードに乗るまで――。


 ――平たく言うと拉致られるまで、途切れることなく続いていた。




 始点は本日、加護エオローの月第四週アンスール鉱石ユルの日。

 冒頭場面より30分ほど時を滝昇った頃
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