心名残り
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らん命令を飛ばし始めたらすぐにでも黙らせられるよう、杖は抜き身で手に提げていたようではあるが。
命令系統に支障をきたさないよう、との配慮らしい。
命令系統の維持の為に仮とはいえ上官を黙らせるという配慮が軍人らしいかどうかは……この際、置いておこう。
閑話棄却なにはともあれ。
ボーウッドの命を受けたアルビオン艦隊は、その運動を均いじしながらも、前代未聞の"親善訪問"の準備を進めていく。
長砲に火の薬弾ほうがんを、操舵士の手の届くところに大量の風石を、心の内に戦いの覚悟を装填し、合図を待つこと数十秒。
左舷向こうを併進しているトリステイン艦隊から、合図の号砲れいほうが上がった。
斯くて"親善訪問せんそう"の幕は開く。
「うん?」
耳を砕かれそうな爆音を上げながら答砲を放っている、メルカトール号の艦上。
フェヴィスは、変わらず右舷方向を航ゆく威風溢れるアルビオンレコンキスタ艦隊の中に、そぐわぬものを見つけた。
ハルケギニアの空中戦艦であれば必ず一隻は積載している、『飛行フライ』の魔法で飛ばす緊急脱出用の小凧ボート。
艦の陰に隠れたのかそれはすぐに見えなくなってしまったが、確かにそれがアルビオン艦隊の最後尾を航ゆく小さな――といってもメルカトール号に匹敵するサイズではあるが――巡航艦の側に、ひっそりと浮かんでいたのだ。
「何か、あったのか…?」
気に食わない相手とはいえ、一応相手は仮でも客人、国賓である。
万一トラブルでもあったなら、こちらで曳航するなり、少なくともそれが必要かを尋ねる程度の義務が生じる。
小凧ボートが緊急用のものであったことがどうにも気に掛かったフェヴィスがそれを尋ねるべく、マストの信号士の方を見上げた時。
丁度、七発目さいごの礼砲を撃ち放った瞬間ときだった。
アルビオン艦隊最後尾の巡航艦が掲げる大きな帆が、礼砲にも劣らぬほどの爆音とその音に見合った突然の爆発によって、根元からへし折られ宙に舞った。
一瞬の間を置き、帆のあった辺りが内より弾け。
その船体は、前と後の真っ二つに千切れ飛んだ。
メルカトール号艦上の誰もが、身動きを忘れた。
何事だ?
あまりにも唐突な事態に、それ以外の思考を行えた者は居らず。
ただ呆然と、地上へ落ちていく艦だった二つの残骸と折れたマストを、多くの者が目で追いかける。
そんな中、レキシントン号の旗手より信号が流された。
放心気味ながらも目はレキシントン号に向け続けていたメルカトール号
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