心名残り
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いのだ。
空の法律を知らない輩に、空軍の指揮など執れるはずもないだろう。
ボーウッドはクロムウェルにそう進言したかったのだが、その肝心のクロムウェルと顔を合わせられたのはロサイスでのただ一度きりだ。
あの一度以降、クロムウェルがボーウッドの許を訪れたことはない。
この艦隊に乗り合わせている『国賓』は、ジョンストン男爵ただ一人であった。
「男爵サー、お言葉ですがいかに新型の大砲といえど、射程限界で撃ったのでは当たるものでは当たるものではありません。
最大射程は、あくまでも"届く"だけの限界距離なのです。
初めの砲撃を外してしまっては、奇襲の意味が……」
「ふん、これだから軍人はいかん。頭が固い。
いいかね?
いまこの艦には、閣下からこの私に預けられた兵が乗っておるのだ。
それも、この後すぐにこの辺りを制圧せねばならん兵を、だ」
あとは解るな? と言わんばかりに見つめてくるジョンストン男爵。
「さあ艦長、弾を込めたまえ。
このままだと連中に近づきすぎてしまう。
それではいかん。怯えで兵の士気が下がるからな」
話にならん。
ボーウッドは、また大きく溜め息をついた。
出港以来この男爵は、あの手この手でボーウッドに『100%の安全』を要求してくるのだ。
先ほどの送辞を送る前にもこの調子で、最大射程距離に入った途端に「弾を込めろ」などと言い張ってきたほどである。
安全を優先して作戦がおざなりになっては元も子もないばかりか命すら危うくなるのだが、どうやらこの上官はそれを理解していないらしい。
要求が三回を越えたあたりからまともに聞くことを放棄しているボーウッドは、態度に出すことなく今回もガン無視した。
したのだが。
愚にもつかない遣り取りをしている間にこちらからの礼砲は撃ち終えてしまったらしく、気付けば兵たちも命令を求めてボーウッドの方に目をやっていた。
――作戦、開始。
自らの内でそう呟き、裡なかみを"軍人"へと入れ替えたボーウッドが艦隊・・に指示を出す。
「左砲戦、準備」
「左砲戦準備、了解Я!」
奇しくも男爵と同じ命令になってしまったが、いまのボーウッドはそれを気にすることもない。
政治も、人としての情も、卑怯な作戦への反発すらも放棄する、忠実なる一本の剣。
それが今までの彼を形造ってきた、"軍人"の器だった。
「そう、それでいい。先手は必勝に繋がるからな」
だからいま、こうして男爵が満足げに大きく頷いていても、知ったことではなかった。
もっとも、い
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