心名残り
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いのだから」
「誰ぞ、私の馬車を! 近衛隊!」
「全員揃っております。命令一つあらば、いつでも動かせるかと」
やや遅れて後を追ってきたマザリーニたちは、追いついた宮の廊下でまたしても普段は絶対に見ることの無かった非常的光景に目を奪われた。
……姫は、これほどまでに能動的だっただろうか?と。
だが、呆然としていたのは数瞬、それだけを持って彼らは硬直状態から復帰した。
急がなければ、引き返しようのない所まで選択は推移してしまうのだから。
「姫様、お待ちを! 何処へ行かれるおつもりですか!」
マザリーニを含む幾人かが、アンリエッタを押し留めようと立ち塞がる。
だが、彼女はそれを意に介した風もなく押し除ける。
「決まっています。
我らが民を苦しめる者どものいる戦場ばしょへ」
何を当然のことをと、ちょっと散歩に、とでも言うような自然さで告げながら。
「貴女が戦場に出でて、いったい何が出来ると言うのですか! 戦も知らぬ貴女が!」
「戦を知りながらも手を差し伸べることのない貴方がそれを問うのですか」
一蹴。
膠にべも無く跳ね除けるアンリエッタは、ついに城の内庭へと姿を現す。
彼女の目に飛び込むは、召集に応じた王家直下の三衛士隊。
各々の幻獣を連れた彼らが、風を切らして敬礼する姿だった。
そうして佇むアンリエッタの前に、彼女の馬車が牽かれてくる。
「御身は御輿入れ前の大事なお体ですぞ! 無茶をしてくださいますな!」
「Abscindo裁ち落としなさい.」
一事ひとこと。
ただのそれだけでパシャりと水の散る音が響き、アンリエッタの真白い婚姻衣装ウェドィングドレスは膝上から切り落とされ、裾が土に落ちる。
振り向きもせずそれを為したアンリエッタは口元を若月のようにひん曲げて笑みを模かたどっている。
「少し短すぎたかしら。
まあ、婚姻衣装がこの有り様では、すぐに挙式と言うわけには参りませんわね」
「「姫様!」」
マザリーニらの声にはもはや耳も貸さず、馬車から独角馬ユニコーンを外したアンリエッタは、ひらりとその背に跨ると声を張り上げた。
それこそ、城中に響くように。
「これより、私わたくしが全軍の指揮を執ります!
目的地、ラ・ロシェール!」
ざ、と袖と靴の音が響く中、アンリエッタは迷いなく独角馬ユニコーンの脾腹を蹴った。
「姫殿下に続け!」
「遅れるなよ! はぐれでもしては家名が泣くぞ!」
引き絞り放たれた矢の様な勢
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