心名残り
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大きくざつに分けて二つ。
己の不見識をなじる者。
思った以上の才知を見せつつある王女の、普段とは違う何かにたじろいだ者。
この二つの内、後者を見せた者を主に見据えながら、彼女はなおも言葉を続ける。
「あなた方は、何のために我ら王族が、貴族メイジがこうして民の上に君臨することを許されているとお考えなのですか?
今この火急の時に、民の血が流されることの無いように守るため、ではなかったのですか?」
マザリーニは、思わず顔を背けてしまった。
アンリエッタへそうあれかしと教えたのは、他ならぬ彼自身だったから。
他の文官たちも、彼女と目をあわそうとはしなかった。
彼女が、何かとても眩しい物のようにその目に映ってしまったから。
それらに対し目を細めるアンリエッタは、普段見せるモノとはまるで違う挑戦的な笑みに瑞々しい口元を歪めた。
「さあ。我こそはという方はいらっしゃいませんの?
かのアルビオンに牙を剥こうという御方は。
例え死すことになろうとも屈しはしない、そんな頼もしい御方はどなたかおられませんの?」
無音。
アンリエッタはぎこちなく、似合いもしない嘲りの色をにじませる。
「なるほど、これも仕方の無いことかもしれません。
アルビオンは紛れもなく大国。
真っ向より刃向かえば敗北は必至、敗戦の将ともなれば戦後責罪を問われることは免れぬ。
なればここは、潔いさぎよく恭順隷属してでも命存ながらえるが得策と。
――そう考えてしまうことは」
かちりと、少なからぬ者が憤りを見せ、それでいて多くの者が萎縮してしまう。
「姫様。言葉が「なれば私が率いましょう。
あなた方はどうぞ会議をお続けになってください。
平和的手段の行使のために」――姫様?」
行き過ぎを咎めようとしたマザリーニの弁を遮ったアンリエッタは、そう宣言すると間を置かずに身を翻し、会議室を後にした。
あまりの突然の行動に身じろぎさえ忘れた者たち。
その内から近衛隊長が、マザリーニや武官たちが、一部の若い文官たちが順次追って駆け出して。
後の会議室には、数人の年経た文官たちだけが残っていた。
「……どうする。我々も追いかけるか?」
その内の一人が、誰にともなくポツリとこぼす。
答える一人もまた、誰へと向けたわけでもなく言葉を落とす。
「……私たちが行って、何が出来るというのだ。
そんなことに労力を使うくらいなら、私たちに出来ることをするべきではないか。
我々にはその努力が無駄にならぬことを、祈ることしかできな
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