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fate/vacant zero
心名残り
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「そんな悠長なことを言っているこの瞬間にも、彼奴らは我らの民草を蹂躙しておるやもしれぬのですぞ!
 手遅れにでもなったらなんとする御積おつもりか!」

「口が過ぎるぞ! 今ならまだ、誤解が解けるやも知れんのだ!
 その機会を逃してしまっては――」


 と、老練の者と年若い者とに卓を挟んで分かれ、結論を出せない論争に明け暮れる文官たち。

 老練の者の上端には、座してただ瞑目し使者の帰りをじっと待つ枢機卿マザリーニの姿もある。



「……軍艦は2・3隻程度の小編成が出来次第、随時ラ・ロシェールの方に送り出せ!
 この際編隊の均衡性バランスは考えるな、武装があればかまわん!」


「鷹馬ヒポグリフ隊、集合完了!」

「翼虎マンティコア隊、全騎揃っております!」

「ぐりゅ、獅鷲グリフォン隊、集合しました!」


「よし、これで魔法衛士隊は全員だな。では各隊への命令を伝達する。
 三隊は別名あるまで王宮で待機。……だからと言って気は抜くなよ?
 使者が戻り次第、命令が下るやもしれんからな。

 ……以上だ。
 隊員に伝達後、お前たちはここに戻ってくるように。

 よいな?」

「「Я!」」「ゃ、Я!」


 と、いつどう事態が転んでも対処できるよう綿密着実に準備を進めている武官たち。


 ――それら会議室の全ての情景を目の当たりにしながらも、卓の奥の奥に座す花嫁衣裳のアンリエッタは、その何いずれをも目にしてはいない。

 彼女はただ呆ほうけたように、時折飛び込んでくる伝令兵ロクでもない報告を、どこか遠い国の出来事のように耳にするばかり。


 彼女の心は、凪の水面のようまったいらだった。



「それにしても遅い。使者の部隊はまだ戻らぬのか?」


 いつから彼女がこうなっていたのかは分からない。

 だが少なくともこの半月の間は、彼女の内はずっとこうだった。



「向こうはタルブだろう?
 風竜ならば、一刻半もあれば用件込みで往復できる距離のはずだが……」


 どれほど彼女の意にそぐわぬことがあろうと、どれほど彼女の想いを踏みにじらねばならなかろうと、すべて飲み下してでも彼女が微笑みを絶やせなかった……否、絶やさなかった理由。

 ただ一つの祷りの笑顔を絶やさずにいられた、不動の源泉であった。



 ……廊下を駆ける音が、遠く小さく段々とまた聞こえてくる。



 彼女が呆けていたのは、アルビオン艦隊撃墜の報それ自体に驚いたからなどでは断じてない・・・・・。

 唯一の望みが、苔を噛みにじるような思いで待ち望んだ願いが、手があと一息で掛かるところにあった結実みのりが、横合いから伸びてきた手に砕き潰されたが
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