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fate/vacant zero
心名残り
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ま大臣と幕僚各位に緊急招集を掛けております故、殿下も取り急ぎ会議室へお急ぎください!」



 青白い顔で非常事態を告げる、息堰切らした翼虎マンティコア隊隊長であった。









Fate/vacant Zero

第二十八章 心名残りひめたねがい







 時は冒頭より二刻ほどをさかしまに廻り、空はラ・ロシェールの山々とタルブ草原の境界線上。

 トリステイン空中艦隊が、神聖アルビオン共和国政府よりの来賓を迎えるべくそこに停泊ホバリングしてから、かれこれ一刻半が過ぎ去りつつあった頃のこと。


 アルビオン艦隊接近の報を受けた艦隊旗艦メルカトール号の後甲板にて、右の頬からこめかみにかけて大きな傷を持つ小柄な初老の男――艦隊司令長官――即すなわちトリステイン空軍の総司令たるラ・ラメー伯爵は、遠く上方より訪れようとしている、ようやっと姿を現した巨体に目を向けた。



「あれがアルビオンが誇った旗艦、王室ロイヤル・ソヴリン級一番艦……そしてその艦隊、か」


 徒党を組んで現れた白のアルビオン艦隊を群雲に喩たとえたならば、それ・・を喩えうるは白の衣せきらんうん以外にないだろう。


 僚艦の全てを蟲の群かなにかと見紛わせる程に、見る者の遠近感を狂わす巨体。

 何かの冗談かと問いただしたくなるほど長大な、甲板にそびえる二連の主砲。

 一度ひとたび放てば目に見える全ての大地に砲火弾雨くだきのあめをもたらすだろう、ヤマアラシをひっくり返したような数と姿の艦底砲台群。


 そして、あまりの巨体ゆえに黒くくすんで目に映る白の塗装が、艦ふねの印象をより重いものへと禍まげている。



 姫殿下とゲルマニア皇帝の結婚式に参加する大使が――アルビオン貴族議会の議長クロムウェルと数人の閣僚たちが――あの艦隊に分乗しているはずだ。



「王政時代のあの艦を見たことがありますが……記憶にあるものより二周りほど大きくなっているような気がしますな。
  後続の戦列艦が、まるで渡り鳥のようですぞ」


 ラ・ラメーの隣に佇む艦長フェヴィスは、苦々しげな面持ちで鼻を鳴らす。

 苛立ちを隠そうともしていない彼は、いまこの瞬間にも自らが空軍の所属であることを心の底から呪っているほど、大のアルビオン嫌い……もとい、解放同盟レコン・キスタ嫌いであった。



「……ふむ。戦場で出くわすことのないよう、祈りたくなるな」


 ラ・ラメーはこの一刻ほどで鍛えられたスルースキルを用いつつ、堂に入った動きでこちらへと近づいてくる頑健なアルビオン艦隊の陣容と、自らが率いるトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見比べ、自虐的にそうこぼす。



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