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fate/vacant zero
心名残り
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「――では、姫さま。ただいま、馬車を呼んで参ります」


 加護エオローの月第4週アンスール、黄金ソエルの日。

 アルブレヒト3世との結婚式を3日後に控えたその日、アンリエッタの身の回りはいつにも増して慌しかった。


 婚礼の為にヴィンドボナへと出立する当日になって、ようやくウェディングドレスの本縫いが仕上がってきたためだ。



 わやわやと群がる侍女たちによって召し替えられたアンリエッタ。

 彼女は召し替えの間中――いや召し替え終わった後になっても身動ぎ一つすることなく。

 今もただ棒立ちになって、馬車の到着を待っていた。


 虚ろな視線はドレスの手甲、丁寧に織り込まれた虹色の羽にむけられ。

 思い描くは、懐かしい記憶。


 あれから、もうどのくらいの月日が経っただろう?


 この七色の羽を見ていると、彼と一緒に過ごすことのできたあの夢のような二週間が、まるでつい先日のことのように思い出せる。



 今はもう叶わないあの日の誓いも、月夜の湖畔ラグドリアンも、意地悪な彼の横顔さえも。

 こんなにもはっきりと思い出すことが出来るのに。



「もう……あの頃には、戻れないのですね……ウェールズさま……」


 涙はこぼれない。

 瞳はうるまない。


 あの日、帽子を受け取った日に、涙は涸らしてしまったから。

 今はただ、乾いた心が引きつるように痛むだけ。


 でも、それでいい。


 私はこれからのトリステインを――母さまを守るために、これからを精一杯生きていかなければならなかったから。

 不安も悲しみも苦しみも、全て痛みに代えてしまえば、これからを微笑んで過ごせるだろうから。



 仇は、きっとゲルマニアが討ってくれる。

 私はそれを、特等席で眺められるのだろう。


 だからきっと、これでいいのだ。



 半ば言い聞かせるようにしながら、アンリエッタは先ほど侍女が出て行ったドアを見やる。


 馬車の用意はまだ出来ないのだろうか。

 どうせ逃れられない運命ならば、早く片付けて楽になってしまいたい……。


 どこか何かが狂った"待ち遠しさ"の溢れたローテンションで、アンリエッタは扉が開く時を待っていた。



 ――だが、



「殿下! 殿下、大変でございます! 一大事にございます! 親善艦隊が!」



 ドアを蹴破るような勢いで部屋に飛び込んできたのは侍女ではなく。



「我らが艦隊が、アルビオン艦隊の攻撃によりボルドー軍港へと撤退させられました!
 損耗2割、司令長官ラ・ラメー伯の生死不明!
 ただい
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