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fate/vacant zero
たからさがし
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 ――加護エオローの月、保護の週ソーン、大樹イングの日。


 その日、結婚を間近に控えたトリステイン第一王女アンリエッタは何をするでもなく、己の居室にて椅子に腰掛けていた。

 部屋の片隅には二週間後の式典・・で己がまとう純白のドレスが掛けられており。

 されど衣装を眺めやるその表情は、まるで氷のように冷たく硬い。


 その心の内には、過日に母に窘たしなめられた時の声が、未だぐるぐると巡っていた。





 『未来のためですよ』

 『あなたの未来のためでもあるのです』

 『アルビオンを支配する、聖邦復興同盟レコン・キスタのクロムウェル』

 『かのものは『虚無』を操るとか』

 『過ぎたる力は人を狂わせます』

 『軍事強国のゲルマニアに居る方が、あなたのためなのです』





 ――なるほど、少なくとも母は、自分の無事を祈ってこの婚姻を承諾したのだろう。


 枢機卿は……考えるまでもない。

 民と国の未来のために。

 あの方は、そういう人だ。


 宮廷貴族たちはどうか?

 これも考える必要はないだろう。


 己の保身のため。

 あの連中が考えることなど、それ以外には有り得まい。



 それでも、それぞれの形は違えど、願う姿はみな一様に同じだった。

 そう。この結婚は、皆の望んだ結婚なのだ。


 ならば私は王女として、皆の望みに、応えなければならない。



 ……それは、解っているのに。

 なぜ私の心は、行きたくないと。


 嫁いでしまいたくないと……、奥底で叫んでいるのか。


 もう……、私の愛したウェールズ様は、この世に亡いというのに。

 この身を縛る制約など、もう何も残ってはいないというのに。


 なぜ私の体は、胸に抱いたこの羽帽子を、手放そうとはしないのだろうか。



 私はいま、いったい何を願っているのだろうか。

 私は、本当に。このままで、いいのだろうか。


 ウェールズ様がいまここに居たなら、この問いにも、優しく答えてくれたのだろうか。

 私の親友が、ルイズが私の立場であったなら、その問いにも答えを出すことができるのだろうか。

 ウェールズ様に風のルビーを授けられたあの少年ならば、その答えを知ることができたのだろうか。



『ならば、わたくしは……、勇敢に、生きてみようと思います』


 それは自分の出した答えだったはずなのに。

 気付けばその答えに辿り着くための道が、いつの間にか霧がかったように隠されてしまっていた。



 私は、いったい。どう生きたい
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