軋んだ想い
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変えさせられたその日の内に、国中から徴兵を行った愚者。
供のものを引き連れ、僧籍に身を置く者でありながらもアルビオンの"皇帝"などと僭称する俗物、オリヴァー・クロムウェルであったのだ。
……自分は番犬であっても、貴族であることを辞めた覚えはなかった。
高貴なものの義務を体現するべく努力を怠らぬ、誇りある番犬であったはずだった。
それがこのような簒奪者を、貴族が守るべき民草すらも戦争へと駆り立てるような愚物を、祖国に君臨させてしまうことになろうとは。
今となっては遅いことだが、あの日、自分が力尽くでも上官を止めておけば。
この艦フネさえ墜としていれば、こうはならなかったのではないかと思うことがある。
一介の巡洋艦艦長に過ぎない自分に、そのようなことが出来るはずはないと分かっていても。
思わざるを、得ないのだ。
「見たまえ、あの大砲を! 余のきみへの信頼を象徴する、新兵器だ」
褪めた視線の先で簒奪者クロムウェルが、舷側から突き出る今回の急な艤装の原因を指差す。
「アルビオン中の錬金魔術師を集めて鋳造された、長砲身の大砲だ! 設計士の計算では……」
「トリステインやゲルマニアの戦列艦が装備するカノン砲の射程の、おおよそ1.5倍の射程を有します」
クロムウェルの傍に控えた、まだ少女といっても差し支えのなさそうな年若い女が答えた。
「そうだな、ミス・シェフィールド」
シェフィールドと呼ばれたその女性を、さっと眺めてみる。
口元に緩ゆるい笑みを浮かべ、濡れ烏の如く長い黒髪を無造作に垂らした姿が、どうにも印象的だ。
髪の色からして、どうやらアルビオンの者ではないようである。
服装は……、なんだろうか、このアンバランスさは。
理知的な印象を与える、詰襟の白いシャツと、細くぴったりとした煤色の背広。
そこに幼げな印象を与える、首元のネイビーブルーのリボンと、腰下を覆う白と浅葱の格子模様が入ったミニのフレアースカート。
そして何より気になったのは、簒奪者クロムウェルの側近としてこの場を訪れているにも拘かかわらず、マントを羽織っていないこと。
……貴族メイジではないのか?
疑問を脳裏に過ぎらせた時、肩の辺りをパシパシと叩かれた。
見れば、簒奪者クロムウェルが何やら満足そうな笑みを浮かべている。
いかん、どうやらいつの間にか見入ってしまっていたらしい。
「彼女は、東方ロバ・アル・カリイエからやってきたのだ。
この大砲を設計したのも、彼女でな。
彼女は未知の技術を……、我々
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